清香の怪我が完治するまでの三週間、私は必死に戦う術を身に着けるべく、毎日サンドバッグに向き合い続けた。
「光輝、何をしているのだ。」
一度、私の父天野川誠也に見つかった。
「父上、お疲れ様です。私は体を鍛えております。清香を守れるような男になるために。」
「そうか、昇進するんだな。」
それだけを述べ私に背を向ける。清香と私の怪我は喧嘩に巻き込まれたと説明した。私が巻き込まれたのは真実だからだ。もちろん、清香が相手を倒したなんて話してはいない。気分が良かったため、私と清香で歩いて家に向かっている時にいきなり周りで喧嘩が始まり二人とも巻き込まれたが、途中で現れた何者かが私たちを助けてくれたと説明した。清香も私に話を合わせてくれたため、すんなりと半嘘話を信じてくれた。これで良かった、いやこれが良かったのだ。私たちの事を父親たちが心配してくれる気持ちは分かる。申し訳ない気持ち半分、親に本気で隠し事をするなど生まれて初めてなのでワクワクした気持ちもあった。明日で清香の外室の許可が出る。今までしっかり休んだ分明日は本気で喧嘩すると張り切っていた清香の姿を思い出す。
「まったく、私が知らなかった清香もいるんだな。」
清香の事は誰よりも分かっている、全て知っていると思っていた。その秘密を少し脅したが共有してくれるのは嬉しいことだ。私はもう一度サンドバッグに向き合い止めていた手を動かしだした。