これは、私が小学生だった時の話。
三年生になって一番最初の課題の一つが、自分の似顔絵と自己紹介を書く、だった。というか、どの学年でもやることではないだろうか。まずはクラスで仲良くなるために、みんなのことを知るために――自分がどういう人間であるかをアピールするのである。
先生が、テンプレートとなる紙を作ってみんなに配り、それに各々が記入。趣味とか、好きなアイドルとか、好きな食べ物なんかを書いたそれを先生が回収して、名前の順に教室の後ろに貼りだすのだ。
それを見て、この子はこういうものが好きなんだな、とか。こういう人間なんだな、というのをお互いに知るわけである。この年も、その例に洩れなかったというわけだ。
しかし。
「どうしたの、田中さん?」
同じ班の女の子が、心配そうに私の手元を覗き込んできた。
「田中さんって、作文とか、文章書くの得意って言ってなかった?似顔絵だけ書いて、手が止まってるけど……」
「う、うん……」
私は彼女に、あいまいに笑ってこう返したのである。
「作文と違って、こういうのは自分のことを書かなくちゃいけないから苦手で。お絵かきは好きだから、似顔絵っぽいのは一応描けるんだけど……」
どうしたものか。
ほとんど埋まっていない用紙を見て、私はため息をついたのだった。頑張れば、趣味なんかの欄は書けなくもない。最大の問題はこれだ。
『あなたの長所を教えてください』
昔から、私はこれが大の苦手だった。自分のいいところなんて思いつかない。得意かな?と思うことがないわけではないが――それを下手に書いたら自慢しているみたいで、なんだか気分が悪いのである。それに、周りにも傲慢だと思われたら、それが凄く嫌なのだ。
だからこの項目が、どうしても埋まらない。毎年そうだった。
――私みたいな、地味で臆病で可愛気もないやつ。いいところなんか、一つもないのに……どうして書かないといけないの?
***
用紙は全て埋めるように。先生にも、そう言われた。しかし、私は何と言われても、その一項目だけは書くことができなかったのである。
「先生、次からは……親しい友達に書いて貰うんじゃだめですか?他の人がいいところを書くなら、自慢っぽくならないし……」
「うーん。それはちょっと難しいかしら。田中さんは前のクラスからのお友達が何人かいるでしょうけど、みんながそういうわけじゃない。まだこのクラスに一人もお友達がいない子もいるし、友達を作るのが苦手な子もいる。そういう子達が、困ってしまうでしょう?」
「あ……」
「それに、自分で自分のいいところを見つけるっていうのは大事なのよ。田中さんも、考えてみて。貴女のいいところ、たくさんあると思うわ」
先生が言いたいことも、わからなくはない。でも、それなら先生が私のいいところとやらを書いてくれればいいのに、と思ってしまう。もちろん金井《かない》先生だって今年私の担任になったばかりなのだし、私のことなんてほとんど知らないだろうから無茶振りだとわかっているが。
結局、私の『いいところ』の欄は空欄のまま。他の子がちゃんと埋めているのにそこが大きく空白で、なんだか妙に目立ってしまっていた。私の名前が名前の順の一番最後だったなら、すみっこに飾られて目立たなかったかもしれないのに――なんてことを今思っても仕方ないのだけれど。
「ばっかじゃねーの?」
そして。そんな私に絡んでくる悪ガキが一人。
「先生に、全部ちゃんと埋めろって言われたじゃん。なんで田中、全部書いてねーの?」
「……うるさいな」
前島樹。去年から同じクラスで、何かにつけて私にちょっかいをかけてくる面倒な奴だった。悪口を言ってくるわけではないが、なんというか、余計なツッコミが多くて毎回ウザい相手である。
今回もそう。人が気にしていることを、わざわざつっこんでくるなんて、嫌がらせだとしか思えない。
「ちゃんと項目埋めろよ。ほら、お前のいいところってやつだろ、書けってば」
「嫌だ」
「なんで?」
「私、いいところなんかないもん。ブスだし、太ってるし、地味だし、ヒクツだし、臆病だし……」
運動神経だって良くない。学校でも家でも、誰かの役に立てるようなことなんてほとんどなかった。そんな人間のどこに、いいところがあるというのだろう?
そして無理やり書いたら書いたで、今度は『傲慢』にしかならない。「お前そんなやつじゃないじゃん!」と周りに笑われたらあまりにも惨めだ。だったらもう、いいところなんかない、書けない。そうするしかないではないか。
「お前のそういうところがムカつくんだよ!いっつも自分の悪いところばっかりレッキョしやがってさ!」
すると。前島少年はぷりぷりと怒りながら、自分の筆箱から鉛筆を取り出してきたのだった。そして、私が止める隙も与えずに、勝手に私の自己紹介の空欄――いいところ、の欄に文字を書き始めてしまったのである。
「ちょ、何すんの!?やめ……」
やめて、と言いかけた私の言葉が中途半端に止まった。
彼がそこにこう書いたからだ――“どーぶつにやさしいところ!”と。
「お前、去年ジャンケンで負けて飼育係になっただろ!うちのガッコの飼育小屋、モルモットしかいねーけど」
「え、あ……うん」
動物は好きだ。けれど、飼育係は自分の担当曜日に朝早く来て、飼育小屋の掃除や餌やりなどをしなければいけない。早く起きる自信がなかった私は去年、立候補しなかったのである。
ところが、同じように考えたクラスメートが多数だったこともあってか、飼育係をやりたがる人が他に一人もいなかったのだ。その結果、まだ係が決まっていなかった数人でジャンケンをして決めることになってしまった。命を扱うものの係なのに本当にいいのか?と正直思うところだが他に方法がなかったのだろう。そして、ジャンケンで負けた私が、飼育係になったのだが。
「飼育係って超大変だ。俺はぜってーできる気がしない。朝早く起きる自信もねー。でもお前、ジャンケンで負けてなった飼育係だったのに、朝ちゃんと仕事してたんだろ。佐川たちから聞いたぞ」
「そりゃ、まあ、そうだけど……」
「他の奴らと比べても真面目に仕事してたし、動物可愛がってたって聞いた。お前動物好きなんだな。動物のことが好きで優しいっていうのは、すっげー長所だと思うぞ。なんでそれ書かねえわけ?」
「い、いや、でも、その……」
そんなこと言われても、と私はしどろもどろになってしまう。自分で、優しい、なんて書くのは恥ずかしい。それに、そう断言できるほどのことをしたわけではない。ただ仕事だから一生懸命お世話をした、それだけだ。人に誇れるようなことなんて何もないではないか。でも。
――そういうの、見てて、くれたんだ。
紙にでかでかと書かれた、明らかに私の字ではない“どーぶつにやさしいところ!”の文字。なんだかひどく、眩しく感じるのはどうしてだろう。
「まだ言うか!ほんと馬鹿!ばーか!」
しょうがねえ!と彼は私の目の前にびしっと指を突き付けて続けたのである。
「俺がお前に思い知らせてやる。毎日毎日、お前のいいところを発見して言い続けてやるからな、覚悟しろよ!!」
「は、はああああ!?」
一体、彼は何がしたいというのか。この時の私は、目を白黒させるしかなかったのである。
なんせ、前島少年はその日以降、本当に宣言通りのことを始めたのだから。朝登校してくると真っ先に私のところに来て、私の良いところを一つずつ言っていくのである。
『田中!お前は絵が上手い!この間描いてたピカチュウの絵、超上手かった!』
『田中!お前は掃除をまじめにする!みんなが嫌な雑巾がけもちゃんとやる!』
『田中!お前は結構力持ちだ。重たい机をちゃんと運べる!!』
『田中!お前は声がけっこーかわいい!』
『田中!お前は……』
こんな具合。毎日毎日毎日。よくもまあ、飽きもせずこんなことを続けられるなと思ったものである。
結果、音を上げたのは私の方だった。こんなことを一か月近くも続けられたのではたまったもんじゃない。嬉しい気持ちと同じくらい、ものすごく恥ずかしい。大体、どうしてこんなことをするのか理解ができない。思い知らせてやると言ったが、何を思い知らせてやりたいのか。
私がついに耐えかねて尋ねると、彼はこう答えたのだった。
「お前が、自分のいいところを理解しないのが悪い!お前にもいいところがあるってことを思い知って自覚しやがれ、ばーか!」
「……そう、言ってくれるのは、嬉しいけど。でも、その……」
「なんだよ、まだ足らないか?まだまだ俺は発見できる自信あるぞ!」
「い、いやだから、そうじゃなくて!なんで私にそんなポジティブになってほしいの!?」
彼のおかげで、前とは少し考え方が変わったのは否定しない。こんな自分のことでも見ていてくれる人がいる、それは間違いなく自信につながったのだから。
ただ、どうしてもわからない。前島少年は、私と違ってクラスでも結構人気者だ。友達もあっという間に増えたし、ドッジボールも上手い、かけっこも速い。そんな奴が、どうしてこんなにも私に構うのかさっぱりわからない。
すると。
「……うるせー!ばーか、超ばーか!」
彼は沈黙した後。顔を真っ赤にして叫んだのだった。
「お前が好きだからだよ、ばっかじゃねーの!ばーか!だからいいとこばっか発見しちまうんだよ、言わなくてもわかれっ!!」
「!?」
なんだろう。どうして今、私は顔が熱くて仕方ないのだろう。それから――視界が滲む理由は、一体。
「……私も、見つけた」
掠れた声で、どうにか絞り出した言葉はそれだった。
「あんたのいいところは……人の長所を見つけるのが、馬鹿みたいに、上手いところだってこと」
いつの間にか、彼のことが気になっていたのは私も同じ。お互いツンデレで、素直になれなくて、なんともみっともない初恋ステップを踊っていたものだ。
それから、なんだかんだで十年後。
彼はまだ、私の隣にいたりする。
三年生になって一番最初の課題の一つが、自分の似顔絵と自己紹介を書く、だった。というか、どの学年でもやることではないだろうか。まずはクラスで仲良くなるために、みんなのことを知るために――自分がどういう人間であるかをアピールするのである。
先生が、テンプレートとなる紙を作ってみんなに配り、それに各々が記入。趣味とか、好きなアイドルとか、好きな食べ物なんかを書いたそれを先生が回収して、名前の順に教室の後ろに貼りだすのだ。
それを見て、この子はこういうものが好きなんだな、とか。こういう人間なんだな、というのをお互いに知るわけである。この年も、その例に洩れなかったというわけだ。
しかし。
「どうしたの、田中さん?」
同じ班の女の子が、心配そうに私の手元を覗き込んできた。
「田中さんって、作文とか、文章書くの得意って言ってなかった?似顔絵だけ書いて、手が止まってるけど……」
「う、うん……」
私は彼女に、あいまいに笑ってこう返したのである。
「作文と違って、こういうのは自分のことを書かなくちゃいけないから苦手で。お絵かきは好きだから、似顔絵っぽいのは一応描けるんだけど……」
どうしたものか。
ほとんど埋まっていない用紙を見て、私はため息をついたのだった。頑張れば、趣味なんかの欄は書けなくもない。最大の問題はこれだ。
『あなたの長所を教えてください』
昔から、私はこれが大の苦手だった。自分のいいところなんて思いつかない。得意かな?と思うことがないわけではないが――それを下手に書いたら自慢しているみたいで、なんだか気分が悪いのである。それに、周りにも傲慢だと思われたら、それが凄く嫌なのだ。
だからこの項目が、どうしても埋まらない。毎年そうだった。
――私みたいな、地味で臆病で可愛気もないやつ。いいところなんか、一つもないのに……どうして書かないといけないの?
***
用紙は全て埋めるように。先生にも、そう言われた。しかし、私は何と言われても、その一項目だけは書くことができなかったのである。
「先生、次からは……親しい友達に書いて貰うんじゃだめですか?他の人がいいところを書くなら、自慢っぽくならないし……」
「うーん。それはちょっと難しいかしら。田中さんは前のクラスからのお友達が何人かいるでしょうけど、みんながそういうわけじゃない。まだこのクラスに一人もお友達がいない子もいるし、友達を作るのが苦手な子もいる。そういう子達が、困ってしまうでしょう?」
「あ……」
「それに、自分で自分のいいところを見つけるっていうのは大事なのよ。田中さんも、考えてみて。貴女のいいところ、たくさんあると思うわ」
先生が言いたいことも、わからなくはない。でも、それなら先生が私のいいところとやらを書いてくれればいいのに、と思ってしまう。もちろん金井《かない》先生だって今年私の担任になったばかりなのだし、私のことなんてほとんど知らないだろうから無茶振りだとわかっているが。
結局、私の『いいところ』の欄は空欄のまま。他の子がちゃんと埋めているのにそこが大きく空白で、なんだか妙に目立ってしまっていた。私の名前が名前の順の一番最後だったなら、すみっこに飾られて目立たなかったかもしれないのに――なんてことを今思っても仕方ないのだけれど。
「ばっかじゃねーの?」
そして。そんな私に絡んでくる悪ガキが一人。
「先生に、全部ちゃんと埋めろって言われたじゃん。なんで田中、全部書いてねーの?」
「……うるさいな」
前島樹。去年から同じクラスで、何かにつけて私にちょっかいをかけてくる面倒な奴だった。悪口を言ってくるわけではないが、なんというか、余計なツッコミが多くて毎回ウザい相手である。
今回もそう。人が気にしていることを、わざわざつっこんでくるなんて、嫌がらせだとしか思えない。
「ちゃんと項目埋めろよ。ほら、お前のいいところってやつだろ、書けってば」
「嫌だ」
「なんで?」
「私、いいところなんかないもん。ブスだし、太ってるし、地味だし、ヒクツだし、臆病だし……」
運動神経だって良くない。学校でも家でも、誰かの役に立てるようなことなんてほとんどなかった。そんな人間のどこに、いいところがあるというのだろう?
そして無理やり書いたら書いたで、今度は『傲慢』にしかならない。「お前そんなやつじゃないじゃん!」と周りに笑われたらあまりにも惨めだ。だったらもう、いいところなんかない、書けない。そうするしかないではないか。
「お前のそういうところがムカつくんだよ!いっつも自分の悪いところばっかりレッキョしやがってさ!」
すると。前島少年はぷりぷりと怒りながら、自分の筆箱から鉛筆を取り出してきたのだった。そして、私が止める隙も与えずに、勝手に私の自己紹介の空欄――いいところ、の欄に文字を書き始めてしまったのである。
「ちょ、何すんの!?やめ……」
やめて、と言いかけた私の言葉が中途半端に止まった。
彼がそこにこう書いたからだ――“どーぶつにやさしいところ!”と。
「お前、去年ジャンケンで負けて飼育係になっただろ!うちのガッコの飼育小屋、モルモットしかいねーけど」
「え、あ……うん」
動物は好きだ。けれど、飼育係は自分の担当曜日に朝早く来て、飼育小屋の掃除や餌やりなどをしなければいけない。早く起きる自信がなかった私は去年、立候補しなかったのである。
ところが、同じように考えたクラスメートが多数だったこともあってか、飼育係をやりたがる人が他に一人もいなかったのだ。その結果、まだ係が決まっていなかった数人でジャンケンをして決めることになってしまった。命を扱うものの係なのに本当にいいのか?と正直思うところだが他に方法がなかったのだろう。そして、ジャンケンで負けた私が、飼育係になったのだが。
「飼育係って超大変だ。俺はぜってーできる気がしない。朝早く起きる自信もねー。でもお前、ジャンケンで負けてなった飼育係だったのに、朝ちゃんと仕事してたんだろ。佐川たちから聞いたぞ」
「そりゃ、まあ、そうだけど……」
「他の奴らと比べても真面目に仕事してたし、動物可愛がってたって聞いた。お前動物好きなんだな。動物のことが好きで優しいっていうのは、すっげー長所だと思うぞ。なんでそれ書かねえわけ?」
「い、いや、でも、その……」
そんなこと言われても、と私はしどろもどろになってしまう。自分で、優しい、なんて書くのは恥ずかしい。それに、そう断言できるほどのことをしたわけではない。ただ仕事だから一生懸命お世話をした、それだけだ。人に誇れるようなことなんて何もないではないか。でも。
――そういうの、見てて、くれたんだ。
紙にでかでかと書かれた、明らかに私の字ではない“どーぶつにやさしいところ!”の文字。なんだかひどく、眩しく感じるのはどうしてだろう。
「まだ言うか!ほんと馬鹿!ばーか!」
しょうがねえ!と彼は私の目の前にびしっと指を突き付けて続けたのである。
「俺がお前に思い知らせてやる。毎日毎日、お前のいいところを発見して言い続けてやるからな、覚悟しろよ!!」
「は、はああああ!?」
一体、彼は何がしたいというのか。この時の私は、目を白黒させるしかなかったのである。
なんせ、前島少年はその日以降、本当に宣言通りのことを始めたのだから。朝登校してくると真っ先に私のところに来て、私の良いところを一つずつ言っていくのである。
『田中!お前は絵が上手い!この間描いてたピカチュウの絵、超上手かった!』
『田中!お前は掃除をまじめにする!みんなが嫌な雑巾がけもちゃんとやる!』
『田中!お前は結構力持ちだ。重たい机をちゃんと運べる!!』
『田中!お前は声がけっこーかわいい!』
『田中!お前は……』
こんな具合。毎日毎日毎日。よくもまあ、飽きもせずこんなことを続けられるなと思ったものである。
結果、音を上げたのは私の方だった。こんなことを一か月近くも続けられたのではたまったもんじゃない。嬉しい気持ちと同じくらい、ものすごく恥ずかしい。大体、どうしてこんなことをするのか理解ができない。思い知らせてやると言ったが、何を思い知らせてやりたいのか。
私がついに耐えかねて尋ねると、彼はこう答えたのだった。
「お前が、自分のいいところを理解しないのが悪い!お前にもいいところがあるってことを思い知って自覚しやがれ、ばーか!」
「……そう、言ってくれるのは、嬉しいけど。でも、その……」
「なんだよ、まだ足らないか?まだまだ俺は発見できる自信あるぞ!」
「い、いやだから、そうじゃなくて!なんで私にそんなポジティブになってほしいの!?」
彼のおかげで、前とは少し考え方が変わったのは否定しない。こんな自分のことでも見ていてくれる人がいる、それは間違いなく自信につながったのだから。
ただ、どうしてもわからない。前島少年は、私と違ってクラスでも結構人気者だ。友達もあっという間に増えたし、ドッジボールも上手い、かけっこも速い。そんな奴が、どうしてこんなにも私に構うのかさっぱりわからない。
すると。
「……うるせー!ばーか、超ばーか!」
彼は沈黙した後。顔を真っ赤にして叫んだのだった。
「お前が好きだからだよ、ばっかじゃねーの!ばーか!だからいいとこばっか発見しちまうんだよ、言わなくてもわかれっ!!」
「!?」
なんだろう。どうして今、私は顔が熱くて仕方ないのだろう。それから――視界が滲む理由は、一体。
「……私も、見つけた」
掠れた声で、どうにか絞り出した言葉はそれだった。
「あんたのいいところは……人の長所を見つけるのが、馬鹿みたいに、上手いところだってこと」
いつの間にか、彼のことが気になっていたのは私も同じ。お互いツンデレで、素直になれなくて、なんともみっともない初恋ステップを踊っていたものだ。
それから、なんだかんだで十年後。
彼はまだ、私の隣にいたりする。



