ゴールデンウイークがやってきた。
まつりはクラス会を開催することにした。

「わかちゃん!一緒にクラス会主催しよ!」

そう言ってクラスLINEでカラオケ大会を主催した。
学校の最寄駅近くのカラオケにクラスメイトたちが集合したものの、言い出しっぺのまつりは、恋バナに花を咲かせていた。

「えー、彼氏いんの!」
「他校!いいなぁー」

まつりの大きな声がひときわ聞こえる。若子は渡されたマイクを誰に回すか迷っていると。

「わかちゃん!歌って!」

クラスの男子が言った。

まつりがわかちゃんって呼ぶからクラスメイトみんなからわかちゃんと呼ばれるようになった。

若子自身、歌うのは嫌いじゃなかった。それに、歌うともりあげてくれる人がきっといる。そう言うクラスで良かったなーと女子たちと恋バナをするまつりの横顔を見ながら思った。

 一方まつりは、主催者として盛り上げなきゃと張り切っていた。女子たちの情報網をここでしっかり仕入れて、前野くんに彼女がいないか調べないと。

若子以外の女子と話すまつりは、もう少ししたたかだった。

「え?じゃあ彼氏いるんだ」
「ね、彼女いる男子、他誰知ってる?」

ここでは絶対にかっこいい人とか、前野進の香りのする言葉は使わない。
使わずに他の誰かが言うまで待つ。そうでないと、みんなに前野くんがかっこいいとバレてしまう。

わかちゃんの反応を見てたらわかる。
私だけがかっこいいと思う時、わかちゃんはあんな風に動揺したり困ったりしない。

わかちゃんもきっと前野くんのこと好きになるんだから、きっと他の子たちも前野くんのこと知ったら、かっこいいって人気が出ちゃう。

だから絶対に、かっこいいなんて言わずに、しれっと隣に並んで誰よりも先に私の!ってしとかないと。

と、いつものまつりらしくない思考を巡らしていた。

「七組って謎だよねー。1クラスだけ2階だし交流少ないし」

さりげなく遠くから振ってみる。前野くんの噂を誰か知ってる人がいたら言うだろう。

「うち、七組に友達結構いるから知ってるよ」
女子バスケ部のつむぎちゃんが言った。
「へー」

数ある噂を聞いたが幸か不幸か、前野進の話題は上がらなかった。

他の話題に移った時、まつりはこっそりつむぎちゃんに聞いてみることにした。

「つむぎちゃん、七組の前野くんって知ってる?」
「あー、知ってるよ、中3の途中から一緒だった」

「途中から?」
「うん、引っ越してきたらしいよ、どこ中だったかな割と近い中学から」

「そうなんだ」
「え、ねぇ前野くんって彼女いるかなぁ?」

「え?まつりちゃん前野くんのこと気になってるの?」
「うん」

「わぁー!可愛い!応援したーい」
「ありがと、みんなには秘密ね」

「もちろん!」
「あ、でも前野くんは…」

つむぎちゃんは言葉を選ぶように間をあけて小さな声で言った。

「忘れられない元カノがいるって噂があるよ」
「え?」

「だから、かっこいいけど皆あまりにも振られるから、前野くんはそう言う感じじゃないって話になってる」
「そ、そうなんだ」

「詳しく知らないけど、大恋愛だったらしいとかいろんな噂あるみたいだよ」

「そ、そっか…」

なんだか、思った以上に胸がずしんと痛む。
まつりは噂を探ったことを少しだけ後悔した。