「もう、春休みの私とはもう別人なんだから!」
「早くない?まだあれから1ヶ月も経ってないんじゃない?」

まつりと若子は朝から門の前にあるベンチに座っていた。

「あの人?」
「違うよーもっと背が高かった」

歩く人歩く人をベンチに座ってジロジロ見ていた。
正直、この2人迷惑だし失礼である。

「もしかしてそれって…」

何かを言いかけた若子はハッと口を閉ざした。

「わかちゃんどうしたの?」
「ううん、何でもない」

何かを言いかけた若子にまつりはこれ以上問い詰めることができなかった。

「わかちゃんはいないのー?かっこいい!って思う人」
「私のことはいいから、ちゃんと見ときなよ、いつ来るか分からないんだから。どんな奴か私も知りたいし」

話を逸らされる。
わかちゃんはいつだってそうだ。
私のことばっかり聞いて、私の応援するばっかりで自分のことは1人で決めてしまう。

少しくらい相談してくれても良いのに…。と登校してくる生徒たちを見ながらまつりは心の中で愚痴を言った。


「また、春休みの時みたいに本人の前で王子様だ!なんて言わないでよね、恥ずかしいから」
「もう!わかちゃん、またそれ言う!」

「旅行先だったからまだ良かったけど、ここは学校だから、噂はすぐ広まるからね」
「もー、私だってそれくらい分かってるよ」

不貞腐れるように口を尖らずまつりから、視線を門の方へ向けた時、若子はふと1人の男子生徒と目があった。

「あ、あの人」

まつりが小さな声で若子に囁いた。


その男子生徒の瞳はもう若子を見ていなかった。隣のまつりに釘付けになっていることはすぐに分かる。

まつりの指先が指す方を確認して、2人の絡まるような視線に若子は驚愕した。

嘘だ。若子は心の中で言った。そんなわけない。何でここに、この学校に彼が、前野進(まえのすすむ)がいるんだと。