反省文を提出した後、まつりは若子と帰っていた。
夕日が2人の影を長く伸ばしていた。

「あのね、わかちゃん」

まつりにはもう一つ決めていたことがあった。

それは、気になったことがあると必ず若子に相談することだった。

「また、なんかあったの?」

いつもの少し冷たい口調で若子は聞いた。

「反省文出した時に、職員室にかっこいい人いたんだ!」

「え?うちの学校かっこいい先生いたっけ?」

いたら入学式とかで話題になるよなー、と呟きながら思い出そうとする若子にまつりは言った。

「違う違う!生徒だよー」
「学年は?」

「んー分かんない!」
「え!見てないの?」

「うん、かっこよくて見惚れちゃった」
「まーた始まったよ。まつりの暴走片想い」

「そんなこと言わないでよ!」
「もうやめてよ、まつり。春休みの時みたいなことしたら絶交するから」 


 若子はうんざりしていた。春休みに中学の卒業旅行でまつりと若子は遊園地に行った時のことだった。そこで一緒にジェットコースターに乗った高校生にまつりは一目惚れした。


「もう!言わないでよ!恥ずかしい」
「見るなり『王子様だ!』って叫んじゃって馬鹿じゃん、王子様って程かっこよくなかったし」


「あの時はそう思ったんだよー」
「午前中に付き合って午後には別れてたんだから笑うしかないよね」

呆れたように言う若子。

「それに、卒業旅行だったからなー」
「それはごめん」

「ま、なんだかんだ、まつりといると飽きないから良いんだけどさっ。今を生きてるって感じするし」

遠くを見るような目で言うと若子は話題を元に戻した。

「で?その人、どんな感じの人?」

「んーとね、全部は覚えてないんだけど、背が高くて…。そうだ!笑った顔がいたずらっ子みたいで可愛かったの!」

「ふーん、それ春休みの彼にも言ってたよね」

「えー?そうだっけ?」

「まつりはいたずらっ子が好きなんだー」

ふふふと笑う若子に、まつりは

「茶化さないでよ!」

と怒った。