(もしかして進くんはこのまま終わらせようとしているの?)

まつりの中で1番不安だったことが頭をよぎる。

「焦らなくても良い、きっとそのうちゆっくり思い出すよ。だからさ、これからも昔の話抜きで今を楽しめば良いと思う」

前野進は、まつりの欲しい答えを渡さなかった。

「うん、はやく思い出したいな」

「ゆっくりで良い。ゆっくりで」

前野進の言葉に物足りなさを感じながらも、まつりはただ、待ってくれているという事実を受け入れることにした。

「進くん、ありがとうね」

「まつりのペースでこれから前向いてけば良いから」

「うん」

流されるようにまつりはそのまま口を閉ざした。

ベランダに吹く風は暑く重苦しかった。