「どうしよう、わかちゃん。わたし、わたし…」

「まつりどうした?」

「何かとても大事なことまで全部忘れてるみたいなの」

「知ってるよ、だけど大丈夫だよ。きっといつか思い出すってお医者さんも言ってたから」

中学3年の夏休みに事故にあってから、まつりは大事なはずの記憶をなくしてしまっていたことを思い出した。

「前野くん悪いけど帰ってくれない?」

若子は咄嗟に前野進をこの場から退場させないとと考えた。

「あ、うん。分かった、まつ…じゃあ帰るわ」

「ごめんね、前野くん」

「ごめんじゃ無い、俺の出る幕じゃないだけ」

その言葉をまつりはいつかどこかで聞いた気がした。

「さっきの人たち、なんで急に私たちに突っかかってきたの?私が思い出せないのと関係ある?」

「まつりはどうしたい?思い出したい?」

「分かんない。やっとこのモヤモヤから抜け出して前を向いて生きて行くって決めたのに、また全部振り出しに戻ったみたいなの」

「仕方ないよ」


「ねえ、わかちゃん。私、進くんと付き合ってたの?」

「どうして?そうおもったの」

「わたしね、ずっと不思議だったの。進くんと会った時にね懐かしい人だと思ったし、前野くんよりも進くんって言った方が口馴染みがあって」



「前野くんに聞いてみる?」

「聞けないよ!おかしいでしょ急にこんなこと言うの」

「おかしいな〜まつり、後ろ振り向かずに前に進むんでしょ?なら聞いちゃった方が早くない?」

「ほんとだね。だけど何か怖いや」