まつりたちが歩いていると、若子は先生に呼び止められた。
「まつり、先行ってて!」
「おっけー、場所取っとくね」
若子の後ろ姿を見守り、まつりは1人廊下を歩いていた。丁度今ホームルームが終わったのか、ワッと賑やかな声が聞こえくる。
わかちゃん、しっかり者だから委員長とかするんだろうな。もう担任の先生と話してるし、私もやれることやんないとな。
まつりが頭の中で考えていると、南館と図書館を繋ぐ渡り廊下に前野進がいた。
しかもひとりで。
チャンスだ!
そう思った瞬間、何を話すのかも考えずに足は前野進の方へ向かっていた。まつりの足は、渡り廊下の手すりに寄りかかっている前野進に引き寄せられるように進んでいく。
辿り着くまでの数秒間、向かう足とは裏腹に頭の中のまつりは「ちょっと待って!」と叫んでいた。
「あの!ま、前野くん」
「おっ、」
不意をつかれたような、戸惑ったような表情をする前野進を見て、まつりは突っ走っている自分を制御できていないことに気がついた。こんな時、わかちゃんがいたら、フォローしてくれるのに。とそんなことを考えていた。
「後野さんじゃん」
そう言う前野くんの笑顔になんだか懐かしさと同時に寂しさを感じてしまう。なのに、なぜだか不安から救われる感覚になる。
「何してるの?」
「図書館空いてなくて、一旦ここで困ってる」
「え?空いてないの?」
「そ、もう自習室いっぱいだった」
「自習室三年生の勉強ガチ勢でいっぱいでさ。まぁ行ってみ、殺伐としてたから。俺ら入りたての一年が入って良い環境じゃないわ」
「ええ、最悪だー。わかちゃんと図書館で待ち合わせしてるのに」
「後野さんもか」
「前野くんも友達待ってるの?」
「うん、」
まつりは前野進の隣の手すりに寄りかかった。
何か言おうと思うけれど、何も思いつかない。気まずい沈黙の末に、まつりは見切り発車で何か言おうとしたその時、
「あの、」
「まつ、」
同時に前野くんが何か言いかけた。
お互いに顔を見合わせて、あたふたする。ふと前野進の顔を見て、日差しに照らされた瞳に吸い込まれそうだと思った。


