忌部市の阿下喜駅から徒歩で3分程度の距離にある、ライブハウス岩田商店。
ここは阿下喜駅から中心市街地へと続く坂道の途中にあるスポットで、主にティーンズのミュージシャンがライブでよく利用していた。
店長のアイミさんが、地元を元気にしたいという願いのもと、学生のアーティストのために採算を度外視でこの場所をつくったらしい。いわばまちづくりのスポットでもある。
デビューを夢見る高校生や大学生のバンドマンがここに集い、定期的にライブが繰り広げられる。
同世代のライバルたちに、オレたちは負けたくなかった。だから必死になって曲をつくり、コンテストにも挑戦し続けている。
今はまるで結果がついてこないが、それでもいつかは、メジャーデビューしてやる。
店内は照明が当たるステージ以外は暗い。ライブに来る客は演者と同じくティーンズが多いとはいえ、その中にガラの悪いヤツもそれなりにいた。
だから、客同士のケンカも時々起こった。警察がやってきている中で歌っていたこともある。
オレと俊介、ユウスケの三人は、だいたい月1回開かれる「ハイスクールフェス」という高校生バンドが交代で出演するライブイベントに参加していた。
抗いの誓いを立てて 拳を振り上げろ
偽りの自分を見せて おい虚しいだろ?
一握りのレジスタンス それは裸になるチャンス
街の真ん中で果たす オレのストリップ・ダンス
知るがいいさオーディエンス これがオレのエビデンス
ステージ上で、韻を踏んだサビになるとオレのボーカルに、俊介が3度上のバック・ボーカルを被せてハモってくる。心地いい瞬間だ。
客は立ったままスナックをドリンクで流し込んでオレたちを見ている。
オリジナルの持ち歌は、10曲くらい。ほぼ俺が作詞をし、俊介が作曲をする。
ライブハウス岩田商店でオレたちのバンドは人気のない部類に入るかもしれないが、それでも数人だけの固定ファンがいた。
サビのパートを歌い終えると、オレのギター・ソロになる。得意のチョーキングとミュートを繰り返していると、店長の制止を振り切って強引に店内に入ろうとする女子が見えた。
まさか!
オレの不安は的中した。
ツキカだ!
この日も募金の活動をした後なのか、上に黄色い蛍光色のジャンパーを着ている。髪を結っていて、大人っぽく見えた。
本当に来るとは。
やっぱりコイツの頭はどうにかしてる。ここは高校生未満の入場は禁止されていて、中学生以下は親同伴でないと入れない。
幼いツキカには場違いだし、たった一人でここに足を運ぶのは、あまりにも無謀だ。
え?
ツキカはオレを指差して、店長に何かを訴えている。
1曲目を歌い終えると、ライブの途中にもかかわらず店長のアイミさんがステージにいるオレに駆け寄って話し掛けてきた。
「あの女の子が、ヤスシ君の妹だから店に入れてほしいって言ってるんだけど。ヤスシ君って妹いるっけ?」
突然ステージがブレイクしたので、会場はざわついてきた。
「よう! パパ活ガールじゃん!」
ユウスケがツキカの姿を確認して、マイクで叫び勝手にドラムを叩き始めた。そしてそのまま2曲目のイントロとなるドラム・ソロへと強引に入る。
もうあと16小節後に、オレは歌い出さなければならない。
アイミさんはユウスケの「パパ活」という言葉を聞いて益々誤解してしまった。本当にオレの妹かどうか確かめようともせず、店の入り口に立っているツキカの腕を掴んで追い出そうとしている。
ツキカがステージにいるオレを見て、必死に目で懇願していた。
あんなに腹が立っていたはずなのに、淋しそうな目をしているツキカを見ると、オレは見捨てることができなかった。
ここは阿下喜駅から中心市街地へと続く坂道の途中にあるスポットで、主にティーンズのミュージシャンがライブでよく利用していた。
店長のアイミさんが、地元を元気にしたいという願いのもと、学生のアーティストのために採算を度外視でこの場所をつくったらしい。いわばまちづくりのスポットでもある。
デビューを夢見る高校生や大学生のバンドマンがここに集い、定期的にライブが繰り広げられる。
同世代のライバルたちに、オレたちは負けたくなかった。だから必死になって曲をつくり、コンテストにも挑戦し続けている。
今はまるで結果がついてこないが、それでもいつかは、メジャーデビューしてやる。
店内は照明が当たるステージ以外は暗い。ライブに来る客は演者と同じくティーンズが多いとはいえ、その中にガラの悪いヤツもそれなりにいた。
だから、客同士のケンカも時々起こった。警察がやってきている中で歌っていたこともある。
オレと俊介、ユウスケの三人は、だいたい月1回開かれる「ハイスクールフェス」という高校生バンドが交代で出演するライブイベントに参加していた。
抗いの誓いを立てて 拳を振り上げろ
偽りの自分を見せて おい虚しいだろ?
一握りのレジスタンス それは裸になるチャンス
街の真ん中で果たす オレのストリップ・ダンス
知るがいいさオーディエンス これがオレのエビデンス
ステージ上で、韻を踏んだサビになるとオレのボーカルに、俊介が3度上のバック・ボーカルを被せてハモってくる。心地いい瞬間だ。
客は立ったままスナックをドリンクで流し込んでオレたちを見ている。
オリジナルの持ち歌は、10曲くらい。ほぼ俺が作詞をし、俊介が作曲をする。
ライブハウス岩田商店でオレたちのバンドは人気のない部類に入るかもしれないが、それでも数人だけの固定ファンがいた。
サビのパートを歌い終えると、オレのギター・ソロになる。得意のチョーキングとミュートを繰り返していると、店長の制止を振り切って強引に店内に入ろうとする女子が見えた。
まさか!
オレの不安は的中した。
ツキカだ!
この日も募金の活動をした後なのか、上に黄色い蛍光色のジャンパーを着ている。髪を結っていて、大人っぽく見えた。
本当に来るとは。
やっぱりコイツの頭はどうにかしてる。ここは高校生未満の入場は禁止されていて、中学生以下は親同伴でないと入れない。
幼いツキカには場違いだし、たった一人でここに足を運ぶのは、あまりにも無謀だ。
え?
ツキカはオレを指差して、店長に何かを訴えている。
1曲目を歌い終えると、ライブの途中にもかかわらず店長のアイミさんがステージにいるオレに駆け寄って話し掛けてきた。
「あの女の子が、ヤスシ君の妹だから店に入れてほしいって言ってるんだけど。ヤスシ君って妹いるっけ?」
突然ステージがブレイクしたので、会場はざわついてきた。
「よう! パパ活ガールじゃん!」
ユウスケがツキカの姿を確認して、マイクで叫び勝手にドラムを叩き始めた。そしてそのまま2曲目のイントロとなるドラム・ソロへと強引に入る。
もうあと16小節後に、オレは歌い出さなければならない。
アイミさんはユウスケの「パパ活」という言葉を聞いて益々誤解してしまった。本当にオレの妹かどうか確かめようともせず、店の入り口に立っているツキカの腕を掴んで追い出そうとしている。
ツキカがステージにいるオレを見て、必死に目で懇願していた。
あんなに腹が立っていたはずなのに、淋しそうな目をしているツキカを見ると、オレは見捨てることができなかった。



