『生まれ変わりのキス』が好評を得てから、オレたちはもっと人間の愛の本質を突く作品を作ろうと貪欲になっていた。オレは1ヶ月で20作品以上の詞を書き、その中でメンバーと相談していいものだけをチョイスして俊介が曲をつくる。
まず俊介がベースで新しい曲のメロディー・ラインを引き、ユウスケとオレが自分の楽器のアレンジを考える。三人で演奏を合わせては、これは違う、などと談義を重ね曲を仕上げるといった具合にして時間が過ぎた。
しかし、不協和音はある日、突然起こった。
それが、母の愛を表現しようとした『マザー』という作品の作詞を見せた時だ。
マザー、教えてよ
僕に人を愛する資格はあるの?
マザー、本当かい?
みんな、僕の事を馬鹿だって言うよ
たとえ世界中を敵にまわしても
あなただけは、味方でいてくれる
だから、僕は強くなれるんだ。
just believe in you
この詞を初めて見た時、俊介は不採用にしようとした。
「駄目だって、こんなの。何か気持ち悪いよ。お前の犯罪に近い異常な愛を感じる」
馴染みの貸しスタジオに入って詞を眺めた途端、俊介がオレに言った。
「作品の内容と作者は別に捉えるべきだろう。オレ個人の文句にしか聞こえないよ」
オレは語気を強めて俊介に言った。
スタジオの中で三人は地べたに座っている。新曲を創る最中に起こった衝突だ。ユウスケは静かに詞を眺めている。
「オレは認めない。この作品も、お前のロリコン趣味も。第一、あの中学生のどこがいいんだよ?」
俊介はまだ強気の姿勢でリーダーのオレに反目する。オレは俊介を睨みつけ、手を握り締めて振るわせた。
俊介はライブの度、最前列にいるツキカを嫌がるようになった。そしてオレが新しい詞を出すと、その作品の奥にツキカの存在が感じ取れて、俊介は不快感を露にしているようだ。
「いいんじゃないか。ヤスシの詞って最近、クレイジーでよ。なあ俊介、やんねえか?」
黙っていたユウスケが、オレと対峙する俊介に口を開いた。
「本気か?」
俊介は、ユウスケの支持が得られないと分かったら、急に意気消沈する。
「ああ、これくらい病的に真っすぐな詞の方がインパクトがあって良い」
ユウスケは、オレと俊介のどちらかの肩を持とうとするのではなくて、バンドの音楽性を考えて合理的に判断している。喧嘩っ早い奴だが、こういうクールな一面もある。
「分かったよ」
俊介はため息をついてから、諦めて言った。
「本当は俊介だって、いい作品だって思ったろう? 何でストップしようとした?」
ユウスケが、俊介を追求し始めた。俊介は黙ってベースを持つ。
「別に。やると決まったからには、いいメロディにしてやるよ。こんな感じでどうだ?」
俊介はユウスケの追求の手から逃れようと、新曲のメロディを思い尽くすままベースで弾いた。それを聞いてユウスケがドラムを叩き、合わせ始める。オレもギターを弾いて、いつもの新曲創作のためのセッションが始まった。
一度演奏が始まると、もうメンバーは音楽のことに夢中になってしまう。オレの詞を嫌う俊介の真意は分からないままになってしまった。
この『マザー』は後日ライブで発表した際、会場にたまたま来ていたインディーズのレコード会社のプロデューサーが気に入ってくれた。そのプロデューサーはライブの後、オレたちの控え室を訪れてスカウトしてくれた。
不協和音の中で、オレたちは着実に前に進んでいる。
まず俊介がベースで新しい曲のメロディー・ラインを引き、ユウスケとオレが自分の楽器のアレンジを考える。三人で演奏を合わせては、これは違う、などと談義を重ね曲を仕上げるといった具合にして時間が過ぎた。
しかし、不協和音はある日、突然起こった。
それが、母の愛を表現しようとした『マザー』という作品の作詞を見せた時だ。
マザー、教えてよ
僕に人を愛する資格はあるの?
マザー、本当かい?
みんな、僕の事を馬鹿だって言うよ
たとえ世界中を敵にまわしても
あなただけは、味方でいてくれる
だから、僕は強くなれるんだ。
just believe in you
この詞を初めて見た時、俊介は不採用にしようとした。
「駄目だって、こんなの。何か気持ち悪いよ。お前の犯罪に近い異常な愛を感じる」
馴染みの貸しスタジオに入って詞を眺めた途端、俊介がオレに言った。
「作品の内容と作者は別に捉えるべきだろう。オレ個人の文句にしか聞こえないよ」
オレは語気を強めて俊介に言った。
スタジオの中で三人は地べたに座っている。新曲を創る最中に起こった衝突だ。ユウスケは静かに詞を眺めている。
「オレは認めない。この作品も、お前のロリコン趣味も。第一、あの中学生のどこがいいんだよ?」
俊介はまだ強気の姿勢でリーダーのオレに反目する。オレは俊介を睨みつけ、手を握り締めて振るわせた。
俊介はライブの度、最前列にいるツキカを嫌がるようになった。そしてオレが新しい詞を出すと、その作品の奥にツキカの存在が感じ取れて、俊介は不快感を露にしているようだ。
「いいんじゃないか。ヤスシの詞って最近、クレイジーでよ。なあ俊介、やんねえか?」
黙っていたユウスケが、オレと対峙する俊介に口を開いた。
「本気か?」
俊介は、ユウスケの支持が得られないと分かったら、急に意気消沈する。
「ああ、これくらい病的に真っすぐな詞の方がインパクトがあって良い」
ユウスケは、オレと俊介のどちらかの肩を持とうとするのではなくて、バンドの音楽性を考えて合理的に判断している。喧嘩っ早い奴だが、こういうクールな一面もある。
「分かったよ」
俊介はため息をついてから、諦めて言った。
「本当は俊介だって、いい作品だって思ったろう? 何でストップしようとした?」
ユウスケが、俊介を追求し始めた。俊介は黙ってベースを持つ。
「別に。やると決まったからには、いいメロディにしてやるよ。こんな感じでどうだ?」
俊介はユウスケの追求の手から逃れようと、新曲のメロディを思い尽くすままベースで弾いた。それを聞いてユウスケがドラムを叩き、合わせ始める。オレもギターを弾いて、いつもの新曲創作のためのセッションが始まった。
一度演奏が始まると、もうメンバーは音楽のことに夢中になってしまう。オレの詞を嫌う俊介の真意は分からないままになってしまった。
この『マザー』は後日ライブで発表した際、会場にたまたま来ていたインディーズのレコード会社のプロデューサーが気に入ってくれた。そのプロデューサーはライブの後、オレたちの控え室を訪れてスカウトしてくれた。
不協和音の中で、オレたちは着実に前に進んでいる。



