「……おい」

 ふわふわとした夢の中で、誰かに呼ばれている気がした。
 この声は誰だろう、あんまり聞き覚えがない。でもどこかで聞いた気がする。私と関わりのある人か。

 「おい」

 もう一度、さっきよりも大きな声で呼ばれた。ちょっとトゲトゲした感じの低い声。

 「……っ!!」

 そこで、はっと目を覚ました。
 寝てたんだ、と気づき寄りかかっていた背中を勢いよく起こすと、誰かとぶつかったようでごん、という鈍い音が聞こえる。
 ぶつかった瞬間、寝ぼけていた頭に一気に衝撃が伝わり、じわじわと痛みだすおでこをそっと抑える。

 「いってぇな……」

 その声で、ようやく今の状況を理解する。
 目の前に立っておでこを押さえてうめく人。
 さっきわたしを呼んでいた人。この荷物の主でもある人。

 「鷹野くん⁉」
 「うっせぇ」

 私の悲鳴に近い声に、絶対零度の冷たい声で返される。
 鷹野蓮。クラスメイトであり、現在隣の席という彼は、一部の女子からはアイドルのような扱いであり、また一部の女子からは出来れば関わりたくないと遠巻きに見られ、男子からはかっこいいと羨望のまなざしを受け、先生からは問題児扱いされる始末。

 私は出来れば関わりたくない側だったのだが、席替えで隣になってしまっては、嫌でも関わることが多くなってしまう。
 まあそれ自体は仕方のないことだし、別に何も言わなければ怒られることもない。

 キャーキャーと騒がれる原因は、芸能人と言われても違和感がないくらい整った顔。ちょっと茶色く染められた髪に、ツンツンとはねている無造作な髪型。
 まぁそういうところを含めてどこを切り取っても俗にいうイケメンだろう。