彼もちょっと照れているようで、ほんのりと頬が赤く染まっていた。
 私から離れて、そっと空を仰いだ彼がぽつりとつぶやいた。

 「俺も、助けられたよ」
 「っ……」
 「お前のまっすぐで真面目なところとか、ずっと見てて飽きねぇなって思ってた」

 照れ隠しなのかは分からないけど、彼の手が口元に持っていかれる。
 そこで、ちらりとこっちを見た彼が、まっすぐに私を見つめていった。

 「冴」
 「……!」

 名前を呼ばれて、心臓がより強く高鳴った。
 今まで名前を呼ばれたことなんてなかったので、不意打ち過ぎてバクバクと心臓が鳴る。

 そんな私をいつくしむように見た彼は、そっと言った。

 「お前のことが好きだ。だから、側にいてほしい」

 彼がそう言った言葉が、理解できなかった。
 え、と声にならない声が漏れる。きっとこのとき、私は間抜けな顔をしていたと思う。

 その言葉をやっと理解したのは、彼の顔が真っ赤に染まっているのを見た時だった。

 「うそ……」
 「ホント。だから、これから迷惑かけるかもしんねーけど」

 ふ、と笑った彼が、私の頭をくしゃりとなでる。

 「付き合って」

 放たれた言葉に、私が答えた「うん」という声は聞こえていたのだろうか。
 きっと、かすれて震えて小さくて、とても聞こえたとは思えない。
 だから、そっと口を開いて、今日いちばんの笑顔を浮かべる。

 「こちらこそ」

 二人の間に、はじけるような笑いがあった。

 「雨、やんだね」
 「ん」

 恥ずかしくなって、照れ隠しでそう言った。
 雨はもう降っていなかった。向こうの空は、夕焼けの光に満ちている。

 どちらからともなく、そっと手を重ねてぎゅっと握りしめた。
 すると、彼の方からも握り返される。

 言葉では語られない、この二人の世界はきっとこれからも続いていくのだろう。

 夕焼けの眩しい光の中で、そっと祈る。

 こうして、ずっと彼の隣で笑っていられますように。

 彼にとって、この世界が希望となりますように。

 夜が近づく中でも、最後、強く輝いた空の向こうにただ、それだけを願った。