ほっと息をついていると、横からかすれた声が聞こえた。
 あわてて彼の方を向くと、降り注ぐ雨を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。

 「お前の思ってるようなやつじゃなくて、幻滅しただろ……」
 「え?」
 「何にも言わずに黙って近くにいて、だっまされたって思われても仕方ねぇよ」
 「そんなことない……! 幻滅なんてしてないよ」

 絶対にありえない。
 だって私は……。

 「鷹野くんのこと、好きだから。どんな鷹野くんでもいいから、そばにいたいって思うんだよ……」

 言いながら、ぽろぽろと涙が出てくる。
 なんでかはよくわからなかったけど、あふれて止まらなかった。
 視界がぼやけて、彼の顔が見えなくなる。

 「私、鷹野くんに救われたんだよ。鷹野くんと会ったから、今の私になれたんだよ」

 涙を拭くと、彼の顔がはっきりと映った。戸惑ったような、驚いているような、そんな顔をしながら私の言葉に耳を傾けていた。

 「我慢してばっかりで、ずっと下を向いて歩いてきた私のところに、鷹野くんが来てくれたから……今こうやって前を向けてる」

 だから、今度は私が彼を支えたい。

 「側に、いさせて……」

 彼が、どんなに大きなものを背負って生きているかは、分かっている。だからこそ、ここで諦めたくない。
 ただ突っ立って、今までの距離感で終われる想いじゃない。

 彼の全てを、背負うことはできないかもしれないけど、せめて、私にできるすべてのことをしてあげたかった。
 一緒に寄り添って、支えてあげられるような存在に、なりたかった。

 さっき拭ったはずの涙が、また溢れてきた。
 どんどんぼやける視界の中で、彼がこっちに向かって手をのばす。

 なんだろうと身構えていると、目のあたりに優しい感触がした。

 「……泣くなよ、分かったから泣くな」

 彼が涙を拭いてくれたらしく、クリアになった視界には至近距離に鷹野くんの顔があった。
 途端に激しくなり出す心臓を押さえながら、ちらりと彼の顔を見る。