「……お前も、親と揉めてんだろ」

 急に私の話になって、あわてて意識を戻した。
 家族のこととかは話した覚えがないけれど、まぁ何となく彼には気づかれているような気がした。
 なので、隠す必要もないと思い素直にうなずく。
 だけど、今は違う。今はもう一度……私のいつか見た家族の形へと近づいていっているのだから。

 「今は、もう大丈夫だよ」
 「……そ」

 雨雲に向かって放たれた声が、むなしく消え去った。
 私の答えを聞いて、彼がこっちを向いてそっとつぶやいた。

 「よかった……」

 彼が、心の底から安堵したかのようにほっと息をついた、
 他人事のはずなのになんでと不思議に思っていると、こっちを向いて少し笑ってみせた。

 「会った時、死んだような顔してたから……。もっといろいろな世界を見て変えてやりたかったから……それが叶って、よかった……」
 「鷹野くん……」

 そうだ。
 彼のことを知るまでは、ずっと鷹野くんのことを『自分勝手』だと言ってきた。
 だけど、本当は自分の身を削ってまで、こうして他人のために動ける人だった。

 そこまで頭に浮かんだところで、今まで彼にぶつけてきた酷い言葉たちが一気に頭の中に入り込んできた。

 ――『鷹野くんには絶対分からないよ……。どれだけ私がつらい思いしてるかなんて、分かんないでしょ……』
 ――『悩みもなくて、勉強もできる、運動もできる、そんな人に何か私の気持ちわからないよ! 毎日楽しくてしょうがないんでしょう?』

 何度私に叫びたかっただろう。
 『お前こそ俺のことなにも分かってねぇだろうが』と何度私に怒鳴りたかったのだろう。

 ――『私の悩みなんて、鷹野くんには分かってもらえないよ……!』

 幾度となく、彼にぶつけてしまったこの言葉たちはもう取り消すこともできなかった。
 毎回彼は傷ついたような表情で、それでも何も言わなかった。
 私を責めるようなことも、傷つけるようなことも、自分の本音を叫ぶことも、なかったのに。