手に弁当を抱えて、いつもの定位置に行く。春とか、夏とか、あったかくなってきた時期は木陰の下にあるベンチでもよかったけど、秋にもなるとさすがに風が冷たくて、日当たりのいいベンチに移動した。

 でも、今日は先客がいたようだ。人影は見えないけど、荷物が置いてあったので場所取りをしているのだろう。
 どうしようかな。今日は向こうの方で食べるか。いやでも、太陽は出ていても風が冷たい。木陰の方に移動しても良かったけど、まだ荷物を置いた人は帰って来なさそうだ。

 戻ってくるまでの間にさっさと食べて、どいてしまえば問題ない。もし帰ってきたらどいて、残りは向こうで食べよう。

 自分の中でそう決めて、よし、とお弁当のふたを開ける。
 「いただきます」と呟いてから、そっと卵焼きに手をのばした。

 おいしい。やっぱりお弁当っておいしい。
 朝早くからいつも……なんてすごく大変だろうな。それを嫌だと言わずに毎日作ってくれるお母さん。
 ありがとう、なんて恥ずかしくて言えたことなんかない。いつも素直になれないのは私の方だ。
 
 変な意地を張ってないで、素直に話す……いや、無理だ、ハードルが高すぎる。

 食べ始めて10分ほどして、そう言えば、と顔を上げる。
 黙々と食べていて気がつかなかったけど、荷物の主がまだ帰ってこない。これならその人が帰ってくる前に食べ終われそうだ。
 そうしたらすぐにどいて、残りの時間は図書館で過ごそう。

 最後にご飯を詰め込んで、静かに口を動かしながら弁当を片付ける。

 それから空を見上げて――だんだんと襲ってくる眠気に抗えず、そっとそのまま意識を離した。