朝のことがあって、それから久しぶりにお兄ちゃんと朝ご飯を食べたところでやっと一息つく。
 これから学校だけど、今日は早く起きたせいなのか朝の時間が長い気がする。

 朝のスープを飲みながらゆったりとしていると、今日の講義の資料を確認するとのことで、お兄ちゃんが先に自室に行ってしまった。

 「そういえば、最近のテストは?」

 ぼーっとテレビを見ていたところでそう聞かれてハッと我に返る。
 最近のテスト、と言えば2日前に合った小テストだろうか。

 数学と国語の2教科だったけど、実はどちらも90点を上回った。
 最近は点数が伸び悩んでいたので予想よりも高い点数が取れてかなり嬉しかった。

 少し浮きだった気持ちのまま報告しようとしたとたんに、一気に今までのお母さんの言葉が流れ込んできた。

 今まで、高得点を取っても『気を抜くな』とか『維持できるかが問題』とか言われてきた。
 思い出したとたんに怖くなって、出かけた言葉ものどに引っかかってしまった。

 「冴?」
 「あっ、ごめん……ええと、93点と、91点……で、あのもっと頑張るから……。つ、次はもう5点ずつくらいあげられるようにするね……」

 やや早口気味でそう言って、そのまま下を向く。
 何を言われるか怖くて、ギュッと膝の上でこぶしを握り締めた。

 お母さんがこっちに寄ってくる気配がして、何を言われるのだろうかと身構える。

 「そう。少し勉強の量を増やした方がいいと思うの。最近、自由課題のこともあったでしょう? だから……」

 言われた言葉が、ちくちくと心の柔らかいところを刺してきた。
 結局いつもと同じ流れか、とため息が出そうになるのをぎゅっとこらえた。

 「ごめんなさ――」
 「ううん、ごめんね、冴。違うの、そんなこと言いたいんじゃないの……。いつも頑張ってるし、得点が伸びたのも分かってるわ……。忙しい中時間を作って勉強してるのも知ってるのに……ごめんなさい、私……」

 謝ろうと口を開いた途端に、お母さんの声がかぶさった。
 口を閉ざしてお母さんを見れば、怒ってるとはかけ離れたような表情で、私のことを見ていた。

 今言われた言葉が全く理解できなかった。
 お母さんが、そんなに私のことを見ていて気にかけていてくれたなんて……。

 「冴はもう頑張ってるのよね、いつもいつもひどいこと言ってごめんなさい……」
 「お母さん……」
 「頑張ったね、冴」

 まるで、小さい子をあやすかのように頭をなでられた。
 それと同時に、熱いものがじわじわと目に集まってきて視界が次第に潤んでくる。
 鼻の奥がツーンと痛くなって、そこからはもう感情を抑えられずに声をあげて泣いた。

 やっと、私を縛っていた何かから解放されたように、すっと心が満ちていく。

 ――『頑張ったね、冴』

 その言葉は、頭に残り続けて頭をなでてくれたあの感触とともに忘れられないものとなった。