「……早く大人に、なりたい……」

 すると、彼の呼吸が一気に浅くなったのがわかった。
 ハッとして彼を見ると焦点の合わない目でぼうっと空を見上げながら、その顔を真っ青にしていた。

 これって、もしかして……症状が、出てる?

 暗所恐怖症。彼が持っているそれは、確かにこの状況だと症状が出てもおかしくなかった。

 真っ暗な公園。街灯や、彼がもってランタンもあるが、それでは確かに心もとない。

 そしてきっと、彼の心ともリンクしているのだろうと思った。
 心配なことがあったり、苦しいことを思い出したりすると、そういう症状も重くなるのかもしれない。

 ガタガタと彼の体が震えているのがわかった。
 それを見て、私の体も震えてくる。

 どうすればいいの、私に何ができるの、と頭が混乱する。だけど、ぎゅっとこぶしを握り締めて彼の背中にそっと触れた。

 「大丈夫だよ。うん……大丈夫」

 彼に言いながら、自分にも言い聞かせる。
 そうすると、いくらか私の震えも、彼の呼吸も落ち着いた。

 私が鷹野くんに出会うまで、自分を失いかけて生きていた。
 でも、そんな自分を鷹野くんが支えて、前を向いて一緒に戦ってくれると言ったんだ。

 それなら……今度は私が助ける番だ。
 
 背負ってるもの、一緒に半分こして歩いてこう?
 私たちなら大丈夫だよ……。
 
 ベンチに座って、右手を鷹野くんの左手にそっと重ねた。

 温もりがある。今を、必死に生きている、証拠がある。
 それならまだ、何度でも立ち上がれる。

 彼が何を隠しているのかは分からない。いつも見せるあの彼の裏側には、一体何が隠れているかなんて、予想できない。

 だけど……彼の背負ってきた荷物を、少しでも軽くすることができないだろうか。

 彼が落ち着いてきたときに、彼は「助かった」と言ってくれた。
 私でも力になれる。

 助けられる。苦しんでいる人の、支えになれる。

 そのあと見上げた夜空には、確かな光が輝いていた。