「鷹野くん……?」

 もしかしてそんなに嫌だったんだろうか。
 あの言葉は冗談だった? それなのに勝手に本気になって空回りしてしまったのだろうか……?

 一瞬そんな考えが頭によぎるも、そんな心配はいらなかった。
 彼の瞳がわずかに潤んでいる。

 「……ホントに、作ってくれるなんて、思ってなかった」
 「うん」
 「嬉しい……」

 かみしめるようにそう言った彼に、ただただ見つめることしかできなかった。
 こんな素人の、しかも恋人でも何でもない人の弁当で、こんなに喜んでもらえるなんて。
 ここまで言われると、もっと豪華にすればよかったかなと思ったけど私のできることは尽くしたのだ。

 「……食べていい?」
 「えっ、あ、うん。パンも食べてたけど、食べれる……?」
 「バカにすんな、一応育ち盛りだ」
 「あ、そ、そっか……」

 食べてもらう予定ではあったけど、いざこんなふうにして目の前で食べられるとどうしても緊張してしまう。
 口に合うといいけどな……。

 ドキドキとしながら、彼がミニハンバーグを口に入れた。
 いたたまれなくなって私もがさごぞと自分の弁当を開ける。

 すると横から、「……うまい」と独り言のような小さな声が聞こえた。

 それに反応して思わず彼の方を向いてしまう。

 「ホント?」
 「ん、美味いよ」

 彼がそう言ってくれたのを見て、私もホッと胸をなでおろした。
 よかった……。

 「こんなあったかい弁当、いつぶりだろ……」
 「え、べ、弁当って冷たくない?」

 彼の言った言葉にとっさに正論を返してしまった。
 途端に横から、「お前はなぁ……」と呆れたような声が聞こえた。

 「ちげーよ、俺が言ってるのは」
 「?」
 「気持ちこもってる弁当なんていつぶりだろ……って言ったの」

 そういった彼が、珍しく笑顔で空を仰いだ。

 「朝早く起きて、作ってくれたんだろ」

 うん、と心の中でつぶやく。頑張ったんだよ、ずっと緊張しながら作ったんだよ。
 
 「それが、すげー嬉しいってことだよ」
 「……っ」

 彼が照れ隠しなのか、口元を手で覆って下を向いていた。
 ちらりと見えた顔は少し赤くて、でもすごく鮮やかで、どこか遠くを見ているようだった。

 「また、作って」

 そういった彼の頬に、一筋の涙が見えた気がした。