一緒に来いと言っているのだろうか。彼が行った後もその扉は開いたままで、ドアの隙間からは冷たくて乾いた風が吹いてきた。

 青空だ。扉の向こうに、明るい空が広がっている。
 雲一つない快晴。吸い込まれそうなくらい高い空は、確かに今、私たちを覆っている。

 どんなに暗い夜だって、こうして明るい空はやってくるのだ。

 「鷹野くん」
 「……ん」
 「ありがとう」

 この時見た空は、私が初めて屋上に来た時に見た空と、同じ色をしていた。



 数分前までありえなかった光景の中にいる。こうして仲直りして、こうして隣に座って同じ空を見上げてる。
 ありえない。
 信じられない。

 昔のままの私だったら、きっとこんな行動をする勇気なんかなかったし、彼とあの日であった公園でも自分の感情は抑えていたんだと思う。
 でもあそこで、自分の殻を破れたのは、全て――。

 「お前は食べねーの」
 「あっ、た、食べるよ」

 じっとこっちを見てきた鷹野くんに慌てて返事をした。
 そうだ、まだ渡せていないのだ。本当の仕事はまだここからだというのに。

 そこで、彼の手を見てあることに気がついてしまった。もう彼はパンを買ったのか持ってきたのか、菓子パンを手にしていた。
 しかももう半分まで食べ進めたところ。

 わ、渡せない……! もっと早く言うべきだった……!

 持ち帰ってもらって明日弁当箱を回収するか。いやでも、それは彼の家の人に迷惑じゃないだろうか……。

 急に黙り込んだ私を見て、彼が不思議そうにこっちをのぞきこんできた。

 「……黙ってんじゃわかんねーぞ」
 「う、うん……」

 そうなんだけど……。
 でもここで迷ってる暇なんかない。

 「こっ、これ……。つ、作ってきた」
 「………マジか」

 彼に押し付けるような形で、無理やり弁当を渡してしまった。
 それを受け取った彼が、まじまじとそれを見てそれっきり何も言わなくなってしまう。
 びくびくとしながら鷹野くんを見ると、唇を強くかんで、何かをこらえるように顔をゆがめた。