その日のお昼休み。
 4時間目の授業は、お昼のことが心配だったり不安で、内容が頭に入って来なかった。

 もともと、自分以外の誰かに弁当を作るのが初めてだったし、しかもケンカした後の男子に渡すという大胆なことをするなんて、いつも通りにしてろなんて無理に決まってる。

 当の本人である隣の彼は、何ともなさそうに全く変わらない態度で授業を受けていた。

 朝来たときは挨拶も何もなくて、まるで以前の関係のように戻ってしまったかのよう。
 そこまで時間が戻ってしまうと彼との思い出や出来事が、全部全部なくなっちゃいそうだった。

 今までの思い出に耽っていると突然パンパン、と教卓の前に立った先生が手を叩く音がした。
 それと同時にちょうどお昼休み開始のチャイムが鳴る。

 ヤバい、もう時間になっちゃった……!

 「今日の授業は終わります」
 「きりーつ」

 当番がのんびりと掛け声をかけて、その声にみんなもゆっくりと立ち上がる。
 それからあいさつを終えるまで、ずっと心臓が激しくなっていた。
 作って、持ってきたのはよかった。だけど、いざ彼に渡すとなるとかなりハードルが高い。

 ぎゅっと弁当箱をもって、決めていた作戦通り北校舎の屋上、入ってすぐの小さな机に置いておこう。
 目に入るとは思うし、小さなメモを入れておけば大丈夫だろう。

 そこで、今どこにいるんだろうと彼の姿を見つけようとして、自分の目を疑った。
 いくら教室を見渡しても彼の姿がここにないのだ。

 「早……」

 授業が終わってまだ2分ほどしかたっていないというのに、いくらなんでも早すぎじゃないだろうか。
 まだクラスのみんなは授業の片づけや、机を片付けているというのに。

 「冴は今日も中庭?」
 「あっ……そ、そうなんだ。早く食べて図書館行ったりしようかなって……」
 「中庭って寒くない? 教室でワイワイするのも楽しいよ?」
 「そ、そうなんだ……」

 きょろきょろとあたりを見渡していると、隣に来た亜紀がロッカーに荷物を入れながら私の弁当を見て話しかけてきた。
 ホントは屋上だけど……そんなこと言えるわけないし、嘘をつくのはちょっと心がいたかったけど、さすがにばれたらどうなるか想像すると怖かった。

 「あっ、友達来たから行くね~」

 亜紀が私に手を振ってから、教室の前の扉の方にいる友達の方に行ってしまった。
 それを見て、私も早足で北校舎の屋上に向かう。