「……それにしては量が多くない? 誰かに作るの?」

 お母さんが私の手元を覗き込んでそう言ってきた。
 これで本当のことを言ったら、鷹野くんについてどんな関係なの、とかどんな子なの、とかいろいろ詮索されるに決まってる。
 しかも、今まで関わっていることを知られたらそれこそ面倒だ。

 私が「それは……」と言葉に詰まりながらハンバーグをつついていると、お母さんが「ごめん」といきなり謝ってきた。

 「こんなの突っ込むところじゃないわよね。いいのよ、別に」
 「……っ」
 「……昨日は……ごめんなさい、お母さんがよくなかったわ」
 「……」
 「ホントに今まで――」
 「うん、ありがと、もう怒ってないから」

 お母さんの言葉を途中で切って、下を向いた。
 嫌だったんじゃなくて、なんか熱いものがこみあげてきて……泣きそうになったから。

 お母さんもお母さんなりに、私と向き合おうとしてくれているのだろうか。
 考えたらじわっと視界がにじんであったかい涙が頬を伝った。

 ごしっとお母さんに見られないように手で拭ってから、「あと」と慌てて付け加える。

 「お兄ちゃんのも作ってるから……ゆっくりしてて」
 「冴……」

 少し照れ臭かったけど、下を向いて何とかごまかした。
 昨日家に帰ったときはどうやって今まで通りに踊るんだろうって思ってたけど、意外とそういうのってきっかけがなかったりする。
 やっぱり私たちは素直になれなくて空回っちゃう、家族なんだ。

 お母さんが私のことをじっと見てから、「ありがとう」と言ってリビングの方に向かっていった。

 私は卵焼きを作りながら、じっとフライパンを見つめる。

 ……鷹野くん、仲直り、したいよ……。

 箸で卵をつつきながら、ふっと息を吐いた。