さすがに追いかけてこないよね、と思ったけど不安になってあてもなく走った。
 息が切れて走るのをやめ、歩きながら周りを見る。

 はーあ、やっちゃったなぁ……。
 言い過ぎた。ひどいこと、行っちゃった。
 でも、今後悔してももう遅い。

 あんなに言い争った後だと、家に帰るのも気まずいし、それ以前にどんな顔をして帰れというのだろう。
 お母さんも怒ってるよね。お兄ちゃんは……驚いてるかな。
 お父さんは私には無関心だから……。

 足元に落ちていた石をつま先で蹴った。はじかれた石はかちゃんと音を立てて、歩道の横にある水路に落ちていった。

 家を出た時はまだ明るかったのに、もうすっかり暗くなっていた。
 薄暗い灰色の雲がオレンジ色のグラデーションを覆っていた。
 家を出た時から比べると風も強くなってきていて、少し肌寒い。

 ここの近くには確か小さな公園があったはずだ。大通りから一本入ったところなので人通りも少なく、木に囲まれているおかげで何とか風もしのげそうだった。

 「って……ホントにこれからどうすればいいんだろう」

 親から預かったスマホは癖で落ち歩いていたけれど、そこにはもうすでに3件の電話と6件の新着メールが来ていた。
 今はなんの言葉も見たくなくて、ベンチに座って空を見上げる。

 それから何分経ったのだろうか。
 もうすっかり日が暮れて、空が紫色に染まりはじめた時だった。

 「お前……」
 「え……? 鷹野く、ん……?」

 突然聞こえた声に驚いて顔を上げると、そこには黒いパーカーを着た鷹野くんが立っていた。
 なんでここに、と言いたげな目でじっとこっちを見ている。

 でもそう言いたいのはこっちも同じで、「なんで……」と呟く。
 あまりにもタイミングが良すぎる。

 「……別に俺は、家に居てもなんもねぇし」
 「……いつも来てるの……?」
 「んーまぁ」

 あいまいにうなずいた彼がこっちに向かってきて、私のすぐ隣にあるブランコに座った。

 「……お前、なんか泣きそうな顔してんぞ」
 「え?」
 「いつもこんなとこいねぇし、しかも見つけた時もなんか元気なかったし」
 「……」
 「時間あるし聞いてやるけど」

 キイ、キイ、とブランコをこぎながら彼がそう言った。

 「……」

 でもその優しさに今は素直に甘えられなくて、下を向きながら自分の影を見つめる。
 すると、黙り込んだ私を見て、彼が「我慢すんなよ」といつもの低い声で言ってきた。
 心配してくれているのは分かったけどなんか今は責められているように感じた。
 それがすごく嫌で、ぐっと唇をかみしめる。