早く自室に行こうと階段に足を向けたところで、「待ちなさい!」と部屋一体に響くお母さんの声がした。
 それだけですっごく怒っているのは分かった。だからこそこれ以上怒らせないように、心を落ち着けながらそっと振り返る。

 「冴、こんな結果出して恥ずかしいと思わないの! お兄ちゃんは学校からお期待されてるっていうのに、冴は……」
 「……」
 「ここ最近のテスト、どんどん点数下がっているわよね。塾の先生からは最近少し上の空なことが多いですって言われたのよ」
 「……」

 そんなこと、いつの間に……。

 ここまで言われると、全部全部監視されているみたいで、行動も全部決められているみたいでぞくっと背筋が凍った。
 言い返せない。言葉が出ない。
 無言の時間が流れ、お母さんがまだ何か言おうとしたその時、お兄ちゃんがためらいがちに口を開いた。

 「お母さん、冴は冴のペースで頑張ってるんだし……」

 こっちの気も知らないで、お兄ちゃんが勝手に私をかばった。だけど、もやもやとした気持ちが広がって私のイライラが増しただけだった。

 「和樹は何も言わなくていいのよ、冴に言ってるんだから。頑張っててこの結果って、もっと頑張らなきゃダメでしょう?」
 「……」
 「冴、聞いてるの? 何か反応しなさー―」
 「わ……私よりお兄ちゃんの方が大切なんでしょ?」

 思わず、お母さんの言葉に心にため込んできた気持ちが爆発した。
 せき止めていた堤防がガラガラと音を立てて崩れていくのがわかる。もう止まれない。

 こんなこと、絶対言っちゃいけないってわかってたけど、もうぐちゃぐちゃになった心ではもう抑えられなかった。

 「お母さんの思い通りにいかなくて期待なんかできない子供なんていらないでしょう?」
 「冴!」
 「こんな……何でもできなくて、お兄ちゃんみたいにできなくて……そんな私なんてどうでもいいんでしょ!」
 「冴!!」

 お母さんの顔が、一瞬ひどくゆがんだ。なんでそんな顔をするのか全くわからなくて、でもどうにもできなくて階段じゃなくて玄関の方に走った。
 うしろから「どこにいくの!」とお母さんの声が追ってきたけど、それも無視して家を飛び出す。