今日は早く帰ることができ、5時前にはリビングで一息ついていたころ。

 「お兄ちゃん……?」
 「あら、和樹(かずき)、帰ってくるの早いじゃない」

 珍しくお兄ちゃんがこの時間に帰ってきて、私はソファから立ち上がりながら急いでキッチンの方に向かう。
 お母さんも今日は休みで、さっきまでテレビを見ていたところだった。

 「おかえり、お兄ちゃん。なんか飲む?」
 「じゃあいつものやつでいいかな。ありがとう、冴」

 大きなリュックを置きながら、お兄ちゃんがソファに座った。それからお母さんと一緒に何かを話しているのを見ながら、そっと紅茶のティーパックを取り出して、急いで沸かしたお湯を注いだ。

 それをもって、またリビングに向かうと何やら賞状のようなものがテーブルに置かれていた。
 こぼさないように置きながら、そっとその賞状の中身を見ると、どうやら少し前に行われた大学生のプログラミング大会で銀賞を取ったということらしかった。

 「こんな大会もやってたのね~。しかも銀賞はすごいわ! さすが和樹ね」
 「チームがよかったしね。みんな僕よりも技術があってすごいよ」
 「そういえばテストはどうだったの? 11月の後半にあるって言ってたじゃない」
 「あ、それなら……」

 お母さんとお兄ちゃんで話しているのを見ながら、そっと自室に向かおうと席を立った。
 このままだと、私に矛先が向く……。

 「――冴、冴、聞いてるの?」

 ……ああ、ほら、思った通り。

 「白峰高でもあったんでしょう、順位とか結果聞いてないけど」

 うしろから、突き刺すような目線と責めるような声が私の方に向いた。

 11月後半のテスト。確かにあった。だけど上手く結果を出せずにほぼすべての教科で点数がかなり落ちてしまったのだ。
 言えない。言えるわけがない。

 「冴?」
 「……20位。これでいい?」
 「な……」

 私が強く出たのが驚いたのか、それとも予想よりも低い順位に絶望したのか分からないけど、お兄ちゃんの前では怒られたくなかった。
 今何か言われると、今までため込んできた気持ちが爆発して、自分じゃない自分が出てしまいそうだったから。
 そんな汚い自分は見せたくなかった。