残り少しのオレンジが、最後の最後に強く輝き始めたのを見ていると、彼が「この後だけど」と話しを切り出した。

 「帰る時間、遅くなったから送ってく」
 「え、え、だ、大丈夫」
 「お前の『大丈夫』はなんなんだよ、変なやつに絡まれたらどーすんだよ」
 「絡まれたことないから大丈夫だよ、ほら、歩いていけばすぐだし」
 「歩きなら余計心配じゃねーか」
 「ホントにすぐだし、だいじょう……」

 ぶ、と言いかけて今彼が言った言葉が頭の中でリプレイされた。
 心配? 心配、してくれてるの……?

 え、と声を漏らして彼を見つめた。すると彼も心当たりがあったようで「今のは……」と口元を覆って横を向いてしまった。
 黒い髪の間から除く耳がっ真っ赤になっているのを見て、鼓動がドクンと大きく音を立てた。
 照れてる……? 

 いつも冷淡冷血塩対応の鷹野くんが……? 

 こっちまで恥ずかしくなってしまって、無言の間を埋めるようにあわてて話を戻した。

 「鷹野くんこそ大丈夫なの? お家の人、心配してない?」

 とっさに彼に話を振ってしまったけど、絶対慌ててるってバレてるよね。
 ちょっと声が裏返ってたし、しかも早口すぎる。私ってば動揺しすぎだ。

 鷹野くんの顔を見れないまま、下を向いて彼の言葉を持っていると「別に」と低い声が響いた。

 「……心配なんかされねぇよ、だから俺のことはどーでもいい」

 本当にどうでもよさそうに言い切った鷹野くんに、私は彼の後をあわてて追いながら「……じゃあ」と引きとめた。

 「ち、近くまで……」

 私がそう言うと、彼はやっぱり感情の読めない黒い瞳で私を見ながら、「んー」と間抜けな声で返事をした。

 
 今の時間は絶対に忘れられないくらい、幸せだった。