お昼休み、いつもの北校舎の屋上で今日も集まってご飯を食べていた。
 冷たい風に吹かれながら、かろうじて雲の隙間から見える太陽がかすかに私たちを照らしていた。

 そんな中、眠気と戦う私をよそに隣に座る彼は黙々とパンを食べていた。
 それを見て私も弁当を食べ始めると、彼がじっとこっちを見てきていることに気がついた。
 あまりにも真剣な顔で見てくるので、一体なんだろうと考えを巡らせる。

 すると彼が誰に言うふうでもなく、独り言のように口を開いた。

 「弁当、いつも親が作ってくれてんのか」

 「え? そ、そうだけど……」

 弁当? それなら彼の言うとおり、いつも朝早くに起きてお母さんが作ってくれているけど……。
 
 もしかして彼は弁当を自分で作って持ってきているのだろうか。だから親に頼まず自分で作った方がいいと言っているのだろうか。

 そこまで考えて、この予想が外れていることに気がついた。
 彼は確か、いつも購買のパンを食べている気がする。

 なんでこんなことを聞くんだろうと、彼に尋ねようとしたところで出しかけた言葉がつまった。

 「鷹野くん……?」

 少し遠くを見るような、(かげ)った目はいつも通り感情が読めなくて、でもどこか寂しげに揺れていた。
 口元は何かをこらえるようにきつく閉ざされていて、苦しそうに手を当て、うめくような低い声がする。

 そこで初めて、彼の今まで隠れていたものが一瞬見えた気がした。

 それからもう一度名前を呼ぶと、鷹野くんはそっとこっちを見ていつも通り、横を向いて誰にともなく「そっか」と呟いた。

 「弁当……」

 そしてそのあと彼がそう言ったのを、私は聞き逃さなかった。
 行動しないと後悔する。このとき直感的にそう思った。

 最大限の勇気を振り絞って、ギュッと両こぶしを握り締めた。

 「わ、私、作るよ、弁当。ずっと購買のパンだと体に悪いよ。変な病気になっちゃうかも知れないし……。私も立派な弁当はつくれないしおいしくないかもしれないけど、ひ、人並みに料理はできると思うし不味かったら私が食べるし、」

 そこまで一息に言ったところで、彼がふはっとこらえきれないように笑った。
 その笑顔を見て、その先の言葉が出なくなって、代わりに心臓が早鐘をうち始めた。

 「ふっ、なんだよそれ、不味かったら食べるって結局俺は食えねーじゃん」
 「あ、そ、そっか」

 さっき見せた表情が嘘のように、年相応の笑顔を見せた彼はこっちを見て、「ん、じゃあ」と口元を覆いながらそう言った。

 誰かのために弁当を作るなんて初めてかもしれないけど、頑張ってみよう、と心の中で決意した。