そして、約束のお昼休みの時間がやってきた。
チャイムと同時に授業のものを片付けて弁当を持ち、速足で北校舎に向かった。
教室にいると、またあんな目で見られているのかも、と思ってしまってなるべく教室には居たくなかった。
周りに誰もいないのを確認して、そっと鉄のドアを押して屋上に向かう。
少し開いた隙間から一気に風が流れ込んできて、髪がばたばたとはためいた。
「重……」
えいっ、と心の中でかけ声をかけてドアを一気に押していった。
解放された広い屋上に、ただ一人。
ひとりだけ、こんなに広い場所に、たった一人だけ。
なにからも縛られず、何にも邪魔されず、ここにある私の世界が広がっていた。
手すりの方まで歩いてちょうどっ目の前に広がる南校舎の屋上を見る。
ここからじゃ顔も見えないし、せいぜい人の数がわかるくらい。ということは向こうもこっちの姿は見えないということだ。
そのことにほっと安心しながら、手すりに寄りかかりながら弁当を膝に乗っけてドアの方を見る。
するとタイミングを見たかのように、ギーッと軋ませながらドアが開いた。
「……鷹野くん」
「来てたのか」
こっちに向かってきて、私の方をちらっと見ながらそうつぶやいた彼に、私は小さくうなずく。
うなずいたのを見て「あ、そ」と呟いて手すりから身を乗り出しながら、何も言わずに景色を眺めていた。
「今日、なんで」
私がそう切り出すと、彼はそのままの姿勢で「なにがあった」と聞いてきた。
いきなり核心に触れられて言葉を詰まらせながら下を向いて「特に」と告げる。
「なんかあったんだろ」
「ない」
「嘘だ」
急に彼の声が低くなった。うなるような低い声が頭の上から降ってきて、何も言えずにじっと黙る。
このままだったら彼に全部教えちゃいそうだ。甘えるだけ甘えて、弱い人間になってしまう。
ぐっと爪を立ててくいこませ、ジワリと痛みを感じながら弱さに傾く自分を自制しようとした。
「それ、やめろってんだろ」
「……ごめ、ん」
私の手元を指差して口を開いた鷹野くんに、反射的に謝ってしまう。
何かあったら悪いことをしたわけでっもないのにすぐに謝ってしまう癖。これもどうにかしたい。
パッと手を離してそれから弁当を広げる。
彼も購買のものと思われるパンを取って食べ始める。
しばらく静かな時間が続いて、唐突に彼が一言つぶやいた。
「話、聞くから」
うん。そう言いたかったのに、全く声が出なかった。
その代わりに掠れた声と、小さな息が漏れる。
ずるい。彼はずるい。
さっきまで冷たくて無関心な感じを装って、それから一気に優しくするなんて、ひどい。ずるい。
そんな聞かれ方をしたら、もう抑えられない。
「……少し前の話だけど、いい?」
「んー」
彼があっという間に食べ終わったパンの袋を丸めながら能天気に返事をした。
重々しい雰囲気より、こっちの方が話しやすいのかもしれない。
彼なら、受け止めてもらえる。大丈夫。
一回弁当を食べる手をやめ、それから深く深呼吸をして口を開いた。
「小学校6年生の時かな。ちょっと、友達ともめたことがあって……」
+++——————+++
チャイムと同時に授業のものを片付けて弁当を持ち、速足で北校舎に向かった。
教室にいると、またあんな目で見られているのかも、と思ってしまってなるべく教室には居たくなかった。
周りに誰もいないのを確認して、そっと鉄のドアを押して屋上に向かう。
少し開いた隙間から一気に風が流れ込んできて、髪がばたばたとはためいた。
「重……」
えいっ、と心の中でかけ声をかけてドアを一気に押していった。
解放された広い屋上に、ただ一人。
ひとりだけ、こんなに広い場所に、たった一人だけ。
なにからも縛られず、何にも邪魔されず、ここにある私の世界が広がっていた。
手すりの方まで歩いてちょうどっ目の前に広がる南校舎の屋上を見る。
ここからじゃ顔も見えないし、せいぜい人の数がわかるくらい。ということは向こうもこっちの姿は見えないということだ。
そのことにほっと安心しながら、手すりに寄りかかりながら弁当を膝に乗っけてドアの方を見る。
するとタイミングを見たかのように、ギーッと軋ませながらドアが開いた。
「……鷹野くん」
「来てたのか」
こっちに向かってきて、私の方をちらっと見ながらそうつぶやいた彼に、私は小さくうなずく。
うなずいたのを見て「あ、そ」と呟いて手すりから身を乗り出しながら、何も言わずに景色を眺めていた。
「今日、なんで」
私がそう切り出すと、彼はそのままの姿勢で「なにがあった」と聞いてきた。
いきなり核心に触れられて言葉を詰まらせながら下を向いて「特に」と告げる。
「なんかあったんだろ」
「ない」
「嘘だ」
急に彼の声が低くなった。うなるような低い声が頭の上から降ってきて、何も言えずにじっと黙る。
このままだったら彼に全部教えちゃいそうだ。甘えるだけ甘えて、弱い人間になってしまう。
ぐっと爪を立ててくいこませ、ジワリと痛みを感じながら弱さに傾く自分を自制しようとした。
「それ、やめろってんだろ」
「……ごめ、ん」
私の手元を指差して口を開いた鷹野くんに、反射的に謝ってしまう。
何かあったら悪いことをしたわけでっもないのにすぐに謝ってしまう癖。これもどうにかしたい。
パッと手を離してそれから弁当を広げる。
彼も購買のものと思われるパンを取って食べ始める。
しばらく静かな時間が続いて、唐突に彼が一言つぶやいた。
「話、聞くから」
うん。そう言いたかったのに、全く声が出なかった。
その代わりに掠れた声と、小さな息が漏れる。
ずるい。彼はずるい。
さっきまで冷たくて無関心な感じを装って、それから一気に優しくするなんて、ひどい。ずるい。
そんな聞かれ方をしたら、もう抑えられない。
「……少し前の話だけど、いい?」
「んー」
彼があっという間に食べ終わったパンの袋を丸めながら能天気に返事をした。
重々しい雰囲気より、こっちの方が話しやすいのかもしれない。
彼なら、受け止めてもらえる。大丈夫。
一回弁当を食べる手をやめ、それから深く深呼吸をして口を開いた。
「小学校6年生の時かな。ちょっと、友達ともめたことがあって……」
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