そのまま他愛もない話をしながら教室まで向かうと、いつもと同じく賑やかな話し声が溢れていた。
 教室に入った途端、急に他の人からの目線が気になってぞっと鳥肌が立った。

 小林さんと山田さんにあんなことを言われてから、どんなふうに見られているのか気になるようになって、ホントは学校に来るのもすごく憂鬱だった。
 まだその二人は来ていないようで、ほっとしながら席について荷物の整理をし、ちらりと隣を見る。
 いない、よね。
 やっぱり今日も、図書館の端に座って一人で過ごしているのだろうか。

 そう思って座って空を見ていると、朝学活が始まる呼びかけがされたところで後ろのドアから鷹野くんが入ってきた。
 思わずそっちに視線を向けると思いがけず視線が絡んでしまった。
 あわてて前を向いて話を聞きながら無意識に髪の毛を触ってうつむいていた。

 鷹野くんにとっては何も変わらない日なのかな。別にあんなことがあっても、何も変わらないのかな。
 そうだとしたら、こんなにも振り回されている私はなんだというんだ。そんなの理不尽すぎる。

 ぼーっと前の教卓を見て、ハッと我に返った。
 いつの間にか先生の話は終わって、周りも授業の準備に移っていた。
 あー、もうなんでこんなに集中できないんだろう。私一人で焦ってバカみたいだ。

 みんなが移動教室に向かう中、遅れて私の準備をして教室を出る。

 「おい、待て」
 「鷹野くん?」

 いきなりのことで分かりやすく体が震えた。
 驚きながら必死に頭をフル回転させて、今日何かあったっけ、と考え込む。

 班別研修についてだろうか? いやでも、彼が関わる仕事は今日ないはず……。

 「ええと、ごめん、なんかあったかな?」
 「今日の昼、屋上来い」
 「え?」

 とまどう私が、彼の透き通った瞳に射止められて何かを探すようにじっと見つめられた。
 呼吸も忘れるくらい緊張して心臓の音がやけに高くなる。

 何か、抑えていた気持ちがあふれだしそうになった……と思ったら、何事もなかったかのように、私の横を通り過ぎて教室を出ていってしまった。

 出来ればもう関わらないと決めたのに。あんな風に言われて、陰口をたたかれるくらいなら、もう関わらないと決めたのに。
 なんで、ごめんと言って断れないんだろう。なんでなんだろう、なんで……。

 「なんでこんなんになっちゃったかなぁ……」

 誰もいなくなった教室で、ポツリと一言漏らした。