ぼーっと中庭で空を見つめていた。
 久しぶりの、一人きりのお昼休みの時間。
 全て食べ終えてほっと息をついて時計を見ると、やっぱり時間はいつもの時間。

 今日は図書館に行こうかな。
 朝もいったけれど、本は借りれていないし、久しぶりに行くのもアリだな、と考える。
 最近は班別研修の調べ物や仕事がたまっていたこともあり、お昼を早く食べ終わっても結局一人で休み時間は取れなかったので、とくに予定が入っていない今日はラッキーだ。

 ちょっと気分が上がり、浮ついた気持ちで図書館に向かう。
 中庭から図書館までは校舎の中をぐるぐると回っていかないといけないのだが、実は北校舎の方からもいける。
 最近そのことを知って、気晴らしにでもそっちから行ってみようかな、と思っていたので今日はいつもと反対の方へと足を向けた。

 最近よく行く場所になった北校舎の入り口にたどり着き、きょろきょろと周りを見る。
 やっぱりこの時間、北校舎には誰もいないのだろうか。

 南校舎の屋上はいつも人でにぎわっているのに……。でもこの静けさというか落ち着いた雰囲気というか、やっぱり好きだな、と思った。

 「今日、いるかな……」

 図書館に向かうはずだったのに、屋上への扉を見たとたん淡い期待が膨らんだ。
 屋上に彼はいるだろうか。今日もいるのだろうか。

 少し見てから図書館に行こう。様子を見るだけなら……。

 窓から入る日差しを受けながら、美術室の前を通り過ぎて屋上の階段に向かう……ところで、ぎくりと立ち止まった。

 「えっ、マジ? 最近出しゃばってるように感じてたしムカつくわ~」
 「鷹野くんも鷹野くんだよね。なんであんな子甘やかすの?」
 「それな~」

 続いて美術室の中から聞こえてきた高い笑い声に、目を見開く。
 この声って私のクラスの小林さんと山本さん。
 すっごくかわいくて、クラスの中心に立っているような人で……鷹野くんのまわりにいるひとだ。
 おしゃれで、モデルみたいな体系でみんなが憧れるような人たち。

 なんでその人たちが鷹野くんの名前を出して……?
 まぁ、いっか。私には関係ない。

 そこまで考えてその場を立ち去ろうとしたところで次に聞こえた言葉に歩き出した足が止まった。

 「榎本さん浮かれすぎてない? あのクラスマッチの時もやけに声かけられてたし」
 「マジで邪魔なんだけど」
 「今まで興味ないって顔して、媚売るとかサイテー」
 「ちょっと話しかけられたからって調子乗ってるのムカつくよね」
 「本気で好きだった子かわいそーだわ」

 地面に足が縫い付けられたように動かなくて、え、とかすかな声が漏れた。
 きゃはは、と人がいない校舎にはよく響く笑い声。
 いやでも耳に入ってくる、甘ったるいざらざらとした声。

 心の奥を突き刺す……言葉の刃。

 ――逃げなきゃ。

 ぎゅっと視界がゆがんで、一気にぼやける。
 もう耐えきれなくて、気がついたときには屋上につながる階段へと走っていた。

 ――『なんかあったら屋上使え』

 少し前のこと。彼は確かにそう言ってくれた。

 ――『何でも話聞いてやる』

 困らせてしまうだけかもしれないけど、今私がいける場所は、そこしかない。