ついこの前まではこんなことありえないって思ってたのに、こんなふうに話すくらい距離が縮まった。
 彼と関わっている間だけは自分を解放できる時間で、何気ない会話がすごく楽しかった。

 会話が途切れて、またふと空を見る。
 今日は奥の方に曇り空。午後は雨。いやでも、もしかしたら午前中に雨かも。
 もうすでに近くまで灰色の分厚い雲が来ているのを見つけた。
 ガラスに映る自分を見ながら、そっと口を開く。

 「私さ、空見るのが好きなんだ」
 「……」
 「結構前からなんだけど、朝起きたら見るのが習慣になってて」
 「……」

 鷹野くんはなにもいってこないけど、静かにきいてくれてるんだな、というのをなんとなく察して話を続ける。

 「この空は、きっと私が思っているよりもずっと広いんだよね……。毎日一生懸命で、頑張って、壊れそうなくらいがんばって、成長したって思っても、まだ全然成長できなくて……」
 「……」
 「私たちが見てる世界って、まだぜんぜん狭いのかもなぁって、壁にぶつかるごとに知らされてさ……」

 私の言葉に、彼が驚いたように私の方を見た。変なこと言っちゃったかな、と思って彼の方を見ると、「そうだよな」って言っていつもの表情よりちょっと硬い顔で空を見ていた。

 「……頑張っても報われなくて、どうしようもないときにどうするか……」
 「え?」

 彼が突然、そんなことをつぶやいた。
 何を言っているのかわからなくて、目を見開いて彼を見つめる。

 すると彼は窓の奥を見つめたまま、あざ笑うように小さく笑う。

 「つまんねー大人のルールに縛られてバカみたいだよな……」

 彼がボソッとつぶやいた。聞き取れたけど、いつもと雰囲気の違う彼に戸惑って「鷹野くん?」と声をかける。
 すると彼は「忘れて」と言っていつもの顔に戻ってしまった。

 今見せた、彼の表情はなんだろう、何があったんだろう。
 もっと知りたい。彼のその表情の奥にあるものが知りたい。

 そう思った時に、タイミングよく朝学活の予鈴が鳴り響いた……。
 結局その後は何も話さないまま、教室へと向かった。