朝、今日はちょっと早めに家を出た。
早めに起きて着替えや髪を縛った状態の私を見て、寝起きのお母さんがびっくりしたように私を見ていた。
なんか予定でもあるの?と聞かれて、少し迷った末、『学校で朝勉強したいから』というのを理由にして家を出てきた。
そう答えた私を見て、まだお母さんは不思議そうにしていたけど、お弁当を作って持たせてくれた。
そして予定通りの時間に家を出てきたのだ。
太陽が照らす学校はまだ電気がついていなくて少し暗かったけど、職員室だけは電気がついていた。
誰にも鉢合わせしたくなくて、逃げるように少し早足で教室に向かう。
やっぱりこの時間帯は生徒がいなくて、教室に来るまで誰ともすれ違わなかった。
いつもはワイワイと騒がしい教室や学校でも、数十分違うだけでこんなに静かなんだ。
教室にカバンを置いて、机にファイルやノートを入れてから時計を見る。
朝学活20分前。よし、予定通り。
そして教室を出て、校舎から離れ、図書館の扉の前に立った。
……いるかな。
扉の前で深呼吸をする。別にただ図書館に入るだけなのに、なんでこんなに緊張しているのかは全くわからなかった。
ガララララ……。
「失礼します……」
小さく縮こまりながら図書館に入る。
それから少し顔を出すと、薄暗い図書館の中でも唯一日が当たっている右の方の机に彼の姿を見つけた。
その瞬間、一気に鼓動が早くなるのを感じる。やっぱりいた、来てよかった。
「……おはよう」
「……はよ」
私の声が、静かな空気を震わせて彼の耳に届く。すると鷹野くんはゆっくりこっちを向いて挨拶を返してくれた。
でもそれは一瞬のことで、次の瞬間には彼の顔は窓へとむけられていた。
静かに彼の方に行って、彼の前の席に座る。
それから私も外を見てそっと息を吐いた。
鷹野くんが私に気遣う……ということがないので、私も特に気遣う必要がないし、かといって気まずくないのでこの空気はすごく心地よかった。
「……ここ、来ても良かった?」
さっきからずっと気になっていたことを聞いてみる。すると後ろから「別に」とぶっきらぼうな低い声が返ってきた。
それから彼が付け足すように「誰のもんでもねぇだろ」とあきれたように言った。
「それ、何回か聞いたことある」
「……お前が聞いてくるからだろ」
ちょっと不貞腐れたような声がした。それにも思わずくすりと笑いが漏れてしまった。
笑うなよ、と舌打ちをして言ってきた鷹野くんに、「ごめん」と慌てて謝る。
つい浮かれて彼の気に障るようなことを言って傷つけたら、もうあとには戻れない。
「……怒ってねえよ」
うなるような低い声が、またうしろから聞こえてきた。
その言葉に安心して、私はほっと息をつく。
