「いや~驚いたわ~。冴と鷹野くんでそんなことになってたとはね~」

 ニヤニヤと笑いながらそう言ってくる亜紀を横目でジトっと見ながら、ドーナツを一口かじった。
 亜紀の視線を受けながらも、完全無視を決め込んでいるので空を見て何とか逃れる。

 放課後の寄り道したドーナツ屋で、今は事情聴取と言ったところ。
 亜紀が来て倉庫の鍵を開けたら二人が手を繋いで座っていたのだ。これを何も聞かれずに、なんてことあるはずもない。
 体育館倉庫から出る帰り際のことを思い出して、ボンッと顔を染める。

 ――『このこと、秘密にしといて』
 ――『!?』
 ――『それと、あとで保健室行けよ』

 耳元にささやかれるようにして言われたあの言葉と、ちょっと見えた笑顔。
 亜紀の前だったけど不覚にもぎゅんっと心臓が跳ね上がってしまった。

 「ねーねー冴何があったのさ~」
 「……いえない」
 「ちぇー」

 頬を膨らませながら「つまんないのー」と言ってドーナツをかじる。
 ま、まぁ手を繋いでたらさすがに『何があった!?』って思うけどさ……。

 「まーなんかわたしいない方がよかったみたいだけどね~」
 「い、いや来てもらって助かったから!」

 「それにしても、あんな仲良かったっけ?」と聞かれて私はぎくりと背筋を伸ばす。
 確かに今まで関わりを避けてきたし、いきなりあんな場面を見たらびっくりするだろう。
 あわてて「班研修の時から……」と笑ってごまかす。

 「好きになったりしないの? 鷹野くんからもやけに懐かれてるし」
 「えええっ、そっそんなまさか! 好きとかわかんないし」
 「怪しい……!」

 きらーんと探偵のように顎に手を当ててこっちを見てくる亜紀に、目の前で手を振って首を振る。
 好きとかは、分からないし……そう、恋愛とかそういうのは知らないし……。

 でも彼といる時間だけは唯一私のゆっくりできる時間で、安心できる場所になってきているのは分かっていた。

 「まっ、応援してるよ!」というやけにウキウキな亜紀を見て、私も呆れながらも笑みをこぼした。