大丈夫かな、と私が扉の方を見に行こうと思って立ち上がると、近くにいた彼がばっと離れて勢いよく扉の方に近づいていった。

 そしてドン、ドン、と一心不乱に扉を叩く。

 「鷹野くん……?」

 私の呼びかけにも反応しなくて、心が奪われたかのようにただただ扉を叩いている。
 それから息が切れたような荒い息遣いが聞こえてきて、いよいよ彼の変化に気がついた。
 いつもと違う。何かが壊れたかのようにひたすらに同じことを繰り返す彼を見て、少し体が震えた。

 怖い。

 だけど、勇気を出さないと。

 「鷹野くん!」

 そっと肩を叩こうとして、少し前のことを思い出す。

 ――『触んな』

 耳元で彼の低い声が再生された。あの時彼は本気で怒っていたし、ここでさらに火に油を注ぐようなことはしたくない。
 さっと手を引っ込めて、代わりに彼の顔を見る。

 つぅ、と頬に汗が伝っていた。相変わらず苦しそうな息遣い。

 「鷹野くん、どうした? 落ち着いて、一回深呼吸しよう」
 「……はぁっ、だいじょう、ぶ」

 荒い息のまま彼は力なくドアに寄りかかって頭を押さえて座り込んだ。
 そんな彼を見て、ぎゅっとこぶしを握り締める。

 鷹野くんは大丈夫じゃない。絶対に大丈夫じゃないのに、頼られない。
 大丈夫じゃないときに頼ってくれない。

 ――悲しい。

 「苦しいの? どうしたらいい?」
 「何でも、ないから……お前は何もしなくていいから……」
 「ダメ!」

 自分でも驚くくらい大きな声が出た。
 体育館倉庫の静かな空気にはよく響いて、それからしばらくして静寂が訪れる。

 「ダメなんだよ……何かに苦しんでるなら、私だって……」
 「……」
 「お願い、何が不安なのか、怖いのか、苦しいのか、全部教えて」

 暗い中だったけど、彼の存在を確かに感じた。
 彼の目をまっすぐに見ていった。その目はいつものような光がなくて、今は影で隠れていた。
 何が彼の目に影を宿しているのか、それが知りたい。