ピ―ッ!
 体育館に響いた審判の笛と、タイマーの音でふう、と息をついた。
 つうっと頬を伝う冷えた汗をぬぐって、同じカラーのビブスを着た亜紀とハイタッチをする。

 「やったね、最後ナイシューッ!」
 「冴こそ、なんであんなに敵を交わしてレイアップまで行けるわけ⁉ かっこいい! ずるい!」
 「ま、まぁ一時期バスケやってたからね……あはは」

 バシバシと背中を叩きながらほめたたえてくる彼女に、私は笑いながら軽くかわす。
 少しくらい活躍出来て、よかった……。

 そう、今日はクラス対抗のクラスマッチ。
 2年生だけなんだけど、毎年行っている伝統なのだ。確か前回は私たちのクラスは1位。今回も連覇しようって言って盛り上がっていて、その宣言通り今のところは全勝中だ。
 私のクラスは中学時代のバスケ部や、現在もバスケ部の子がたくさんいるので結構有利なのだ。
 バスケ部は出ちゃいけないというルールもないので、バスケ部は結構ガチの試合をしてる。

 次は試合がないみたいだ。コートから出て観戦場所に行く。
 ギャラリーも使っていいらしく、観戦する人はみんなそこに集まっている。
 次はAコートで男子の試合だ。

 「うちのクラス、けっこう強いみたいよ? あっ、次鷹野くん出るって」
 「だからさっきから盛り上がってるんだね~」
 「まぁ本人は完全無視ですけどね~。冴、どこの試合みたい?」

 「Aコートではうちらの組の男子で、Bでは女子たちだってさ」と付け加えるように言われて、ますます迷いが出る。
 亜紀はどっちを見たいんだろう。やっぱり自分のクラスの男子か。いやでも、もしかしたら他クラスの友達を見たいかもしれない。

 どっちでも、なんて言ったら怒られるだろうか。亜紀が決めてって言ったら、やっぱり逃げだと思われるだろうか。
 でもどっちがいいんだろう。

 ああ、こういうとこ、全く成長できてないや。
 二択を迫られたときに、優劣つけられずに迷って、挙句の果てには『どっちでも』と言ってしまう悪い癖。
 自分の欲を隠して生きて、自分が我慢すれば誰も傷つかないと知ってからいつの間にか日常的に使うようになっていた。

 自分の欲を出さないって言うのは良いことだと思ってた。だけど、それを見て『自分の考えが持てない人』って思われたらもうそれまでだ。
 だって鷹野くんだって、昨日そう言っていたのだから……。

 「ん~じゃあさ、前半はうちらの組の試合見よ~」
 「あっ、うん!」

 結局決められないうちに亜紀が決めてしまった。後ろから静かについていって、あいているところにそっと座る。

 じいん、と足首のところが痛む。さっきから痛かったのだけど、別に言うことでもないと思って黙っていた。
 たぶん軽い捻挫だろう。捻挫程度ならテーピングでもしておけば数日でなおる。
 バスケをしていた時もそれは経験済みで、毎回綺麗に治っていたので今回も大丈夫。

 「あっはじまったよ! ……冴?」
 「ごめん、大丈夫だよ、試合見よ!」

 あーあ、何が大丈夫なんだろう。
 何もかも、全く大丈夫じゃないって言うのに、なんでこの口は嘘を言っちゃうんだろう。