「起きなさい、冴。 いつまで寝てるつもりなの!」

 バン、と勢いよく開かれた扉の音と、お母さんの怒声で目が覚めた。
 おかげで寝起きは最悪で、眩しく差し込む光に目を細めながら、何とか起き上がる。

 「さっさと着替えなさい、今日も学校なのよ」
 「……」
 「テーブルに朝ご飯置いておくからね」
 「……はい」

 眠い目をこすりながら一言答えてベットから立ち上がり前の日に準備していた服を持つ。
 お母さんが呆れたようにため息をついて部屋を出ていこうとした時、お母さんの目があるものに向く。

 「……って、これ……」

 目線を追っていくと、そこにあったのは数日前から読み返していた3冊の小説。
 とっさに隠そうとしたけれど、それは間に合わずにお母さんの声が頭上で響いた。

 「まさか夜遅くまでこんなの読んで、朝起きれなかったとかいうんじゃないでしょうね。勉強の方にも力を入れてって言ってるのに、なんでこんなのを読もうとするのかしら」

 お母さんが3冊の本を乱暴な手つきで手に取った。
 ハッと息をのんだ瞬間、1冊がお母さんの手から抜け出し、ごとっと音を立てて床に落ちた。

 お母さんはまたそれを拾おうとして手をのばして、しゃがんだところにやっとの思いで言葉が出た。

 「……やめて」

 思ったよりも低い声が出た。寝起きだからかすれてるけど、そんなことどうでもいい。

 「冴?」

 さっきまで怒っていたお母さんが、私の声に驚いたのかびっくりしたような表情でこっちを見た。
 その何とも思っていなさそうな顔に、さらにふつふつと怒りがこみあげてくるのを感じた。
 いくらお母さんだからって、こんなのはひどすぎる。

 でもその怒りがぶつけられなかった。まだ自分の殻を破れずにぐっと握りしめた拳に力が入る。

 「……次のテストまでは読まないから。読まないから……」
 「……」
 「置いといて、それ」

 今度は声が震えていた。お母さんにとられた本と床に落ちた本を差す指も震えていた。

 「まぁ、ちゃんと勉強をして生活に支障が出ないならいいのよ」

 お母さんは静かにそう言うと、手に持っていた本をそっと床において、それから「じゃあ早く降りて来なさいよ」と言ってから部屋を出ていった。
 あんまり私が出さない声に、ちょっと狼狽えたのかもしれない。
 いつもよりも深くまで突っ込んでこないで終わった。
 そのことに安心して、ほっと胸をなでおろす。

 それから床へ落ちた時の衝撃で小さく破れてしまった表紙絵をなでながらそっと「ごめんね」と呟いた。

 私が弱いせいで、私が何も言えないせいで、こんなことになってごめん。


 大切なものひとつ守れない私は――やっぱり弱い。