「重……」

 上の方の資料集を取った瞬間、一気に重みが加わっよろけて倒れそうになるのをぐっとこらえた。
 ちょっと埃っぽくて、狭い部屋に天井まで届く大きな本棚。いっぱいの本が入ってて図書館のような親近感が沸く。
 窓から差し込んでいる放課後の強い日差しに埃が照らされて、キラキラと反射していた。

 さっきまでのうるさい声が、どこか遠くに行ってしまったように感じる。
 じっと目をつぶっていると、1秒1秒がすごく長くて、ここだけゆっくりとした時間が流れているように感じた。

 「そろそろ行くかぁ……」

 資料集、およそ20冊をかかえて資料室を後にする。
 すると、扉を出てすぐのところに壁に寄りかかった鷹野くんがいた。

 「な、なんでここに?」

 驚きながらそう言うと、彼が近づいて「先生に」とつぶやく。

 「屋上行ったら先生に捕まった。ここ行けって」

 髪をかき上げてそういう彼に、私は「そうなんだ」と面白みのない返答をする。

 「その資料集、持つ」
 「あっ、いや、大丈夫だよ。このくらい持てるよ」

 とっさに出た大丈夫の言葉に、また言っちゃった、と心の中で反省する。
 素直に『持ってくれるの?』って言えればいちばんいいのに、なんでこんなことも言えないんだろう。自分が嫌だ。
 『これ運ぶだけだから帰っていいよ』と言おうとしたところで、急に横から手が伸びてきて、私の持っていた資料集を半分以上持っていってしまった。

 「あ、ありがとう」
 「……」

 さり気ない気遣いによって、さっきよりも軽くなった手元を見て何か、熱い何かがせり上がってくるのを感じた。
 のどのところにたまる、熱いナニカ。ゴクリと喉を鳴らすと、じわっと視界が潤んだ。

 自分のつま先を見ながら一緒に教室に向かっていくと、次第に会話がなくなり途中からは無言の時間が続いた。
 昨日のこともあって、ちょっと気まずい。
 でも気まずいだけで、不思議と嫌じゃない。亜紀たちといるよりもずっと自分らしく入れる気がした。

 どさっと教室の机に資料集を置く。しびれた手をひらひらとさせていると、鷹野くんが無言でカバンを掴んで教室を出ていく。
 私も帰ろうと思ってドアの方に行くと、ドアの前で鷹野くんが立ち止まっていた。