放課後になった。
帰り学活終了のチャイムとともに、みんなが教室から出ていく。
「鷹野くん、今日暇~?」
「ねー、一緒にカラオケ行こ―!」
「来てくれるだけでいいから!」
隣が騒がしくなった、と思ったら、早い下校の後の時間を鷹野くんと過ごそうと思う女子たちの壁ができていた。
キャーキャーと女子たちが騒ぎ、まるでアイドルのような騒ぎを起こしている張本人は全くの無視で、ずっと外を見てる。
いつもあんなに囲まれて騒がれてたら、こういうのももう慣れるものなのだろうか。
感情ひとつ読めない瞳は、ただただ空の青さを映していた。
「鷹野くん、この後行こうよ、ね!」
積極的な女子の子が、ひときわ明るい声で話しかけた。その子がポン、と肩を叩こうとした瞬間――。
「触んな」
しん、とあたりが静まりかえるほどの力を持つ、低い声が響いた。
声自体はそんなに大きくないはずなのに、みんなを黙らせる圧倒的な力を持っている声。
ぞっと背筋が凍る。空気もキーンと張りつめた。
「邪魔なんだけど」
ガタン、と大きく音を立て、乱暴なしぐさでイスから立つ。
カバンを持つと女子たちの壁をすり抜けて教室を出ていってしまった。
唖然とその姿を見送った女子たちは、少しの間があってから「ダメだったかぁ」といつものことのように言った。
諦めないの、すごいな。私だったら絶対1回で傷ついて、もう話しかけられないと思うのに。
女子たちがワイワイとまたも盛り上がりを見せたところで、プルルルル、と教室の電話が鳴る。
近くにいたのは私だったので、電話を取って耳に持っていく。
『あ、班別研修の6班の人いるか』
「私、6班の榎本です。なんか用ありますか?」
『ああ、資料がまだ運ばれてないからこの後資料室まで運びに来てほしくてな。ついでに明日使う資料集も運んで欲しいんだが……。もしあれなら鷹野とか連れてけ。アイツならまだいるだろ』
「あ、はい……。そう言うことならこの後行きます、ありがとうございました」
『おーありがとな~』
電話越しに担任の間抜けな返事が返ってきたのを確認して、私はがちゃんと電話を戻した。
ん、どうしようかな……。
資料だけなら私だけでも行けたけど、資料集も、となるとかなりの多さになる。
でも、鷹野くんも今はもういないし、きっと帰ってしまった。引きとめたところで気まずいだけだ。
私がやれば、誰にも迷惑をかけない。私がやれば、誰も嫌な思いをしない。
「……行くか」
いつの間にか静まりかえっている教室を後にして資料室の方に足を向けた。
