昨日、あからさまに無視したせいで会うのが気まずい。変な所見せちゃったし、ちょっといつもと違う感じだったと思う。
 鷹野くんと二人きりだなんて、もう地獄に近い。
 今までなら何ともなかったのに、昨日の件があるので今までどおりが難しいのだ。

 どうしようかな、と一人で考えていたら、教室の前の方から、話題に上がっていた彼自身が歩いてくるのが見えた。
 一瞬パチリと目が合って、頭の中を見られているわけじゃないのにびくりと反応してしまった。
 でも本人はそんなこと全然気にしていないようで、いつものように感情の読めない目で私を見るだけだった。

 彼はカバンを机の横にかけて、そこからだるそうに上着を脱いで、イスに掛け、そのまま座ってぼーっと空を見ていた。
 その一連の流れさえサマになっていて、思わず見惚れるところだった。

 悩みなんか、きっと一つもなくて好きなことを好きなだけ追求できるんだろう。

 圧倒的だった。すごく、すごく高いところにいていつも光を浴びている。
 我慢して、自分を守って、怒られるような私とは、全然違う、まったく別の世界に住んでいるような人。

 思ったことは全部言うし、自分の世界を貫いて。
 それでも仲間外れなんかにならなくて、常にクラスの中心に立てるような……そんな人。

 神様ってば不公平だ。
 小説で言ったら、きっと私は主人公の友達にさえなれないモブ。もしかしたらモブにもなれないかもしれない。
 でも、彼は常に主人公だ。光を浴びて、どんな困難もものともせず進んでいって、みんなに希望を与える。

 いいなぁ。
 悩みがなくて、容姿も完璧で、頭も良くて、運動もできて。
 そんなすごい人になったら、欲はあるのだろうか。

 ああなりたい、こうなりたい、という欲なんかあるのだろうか。

 「……ないよね。うん」

 考えていたらきりがないな、と思ってぱしんと頬をたたいて気合を入れた。
 朝学活までは時間がある。昨日できなかったところの復習と、今日の授業の予習を済ませてしまおう。

 横に出ている髪を耳にかけて、そっとシャーペンを握った。