朝、体調がだいぶ良くなって学校に登校した。
 昨日のめまいやら頭痛やらがちょっと厄介で、今まで通り薬だけではよくはならなかったけど、一晩寝たらよくなった。
 でも、寝る時間を優先してしまったおかげで昨日は全然勉強ができなかった。塾の宿題も残っているというのに、何一つ手をつけずに眠ってしまったのだ。

 「って、冴、聞いてる? お~い?」
 「さえさえ、また寝てないんじゃなぁい? 眠そうな顔してるよぉ?」

 名前を呼ばれ、ひらひらと目の前で手を振られてハッと意識が現実に戻ってくる。

 「ご、ごめん~。大丈夫だよ~。ほ、ほら、昨日本読んでたらいつの間にか朝になってたっていうか?」
 「なにそれ、ウケる~。冴、ホント読書好きだよね~」

 アハハ、と周りから笑いがこぼれた。
 そのことにほっとして、私も笑みを浮かべる。すると亜紀が「そういえば」と、あごに手を当ててみんなの顔をぐるっと見た。
 「ビックニュースだよ?」と前置きしてから周りに人がいないことを確認するとこそっと小さな声でつぶやいた。

 「今日の朝、小林さん、コクハクしたって……!」
 「「キャーーっ!」」

 誰に、というのは言わなくてもわかった。亜紀含め顔を真っ赤に染めた私以外の3人に、「そうなんだね~」と亜紀にうなずく。
 すると亜紀は「はぁあ~~っ」とため息をついてから、私の顔をびしっと指差す。

 「冴は恋愛に淡泊すぎなの! 年齢=恋したことない歴は卒業した方がいいよって言ってるじゃん~」
 「いや、知らんよ」

 毎度のことに、私もいつもの返事を返す。
 もともと、小学校に入って、高学年になって……『お母さんに褒めてもらう』ことだけが私の中の全てで、勉強もやってたら恋愛なんかできやしない。

 「にしても、鷹野くんモテすぎ~」
 「だよねぇ、昨日も告白した人いるって聞いたよぉ」
 「え! そうだったの⁉ あたしのところにそんな情報きてな~~い!」

 3人で盛り上がるのを見守りながらにこにこと笑っていると、またも亜紀の指が私に向く。
 「今度は何?」と首をかしげる私に、亜紀はにやにやと笑いながら「そーいえば」と私の目を見つめた。

 「班別研修同じ班でしょ。ほらぁ、さすがになんかキュンキュンエピあるでしょ~」
 「ない」
 「そんなこと言って~。これから班で居残りとかあるでしょ~」
 「ぐぅ……」

 実は私たちの班は前回の調べ学習の時間に2人休んだこともあってかなりの遅れをとっていた。
 なのでこれから居残りとかも十分あり得る。山田君は電車通学なので居残りできないし、鈴木さんは絶対来ない。
 2人きりの居残りは可能性として高かった。
 
 押し黙る私を見て、周りも騒がしくなる。
 「ホントですかぁ?」と言ってきたり、「急展開すぎない⁉」と一人大興奮していたり。

 「そんな期待してるような展開にはなんないから~。ね、フツーだって、フツー」
 「なんかあったら教えてね! 友の恋は全力で応援する!」

 キャッキャと笑いながら自分の席に戻っていくのを見て、私はそっと息を吐いた。