残りの気力を振り絞って、いつもの笑顔を浮かべる。

 「大丈夫だよ、心配かけてごめん」
 「……嘘つくな」

 立ち上がって私の方を向いた鷹野くんと目が合う。
 水晶のような目に見つめられながらもう一度ゆっくり「嘘つくな」と言われた。

 ドクン、ドクン、と心臓の音が変になる。
 もう限界だ、と悟って最後に笑みを張り付けたまま、彼の目から視線を外して呟く。

 「ごめん、大丈夫だから」

 そう言って、今度は駆け足で教室のある校舎に向かった。
 うしろから、何か呼び止める声が聞こえた気がした。でも振り返ったら迷惑をかけてしまう。ここで彼に甘えたら、私が弱くなる。

 早歩きのまま、ギュッと弁当箱を持つ右手に力を込める。

 さっきの『ごめん』はなにに対する『ごめん』だったのだろう。彼に心配をかけてしまったことか。それとも、無視して『ごめん』なのか。

 もうはっきりしない頭では、それすらもわからなかった。


 『大丈夫』

 その言葉はすごく便利で、それと同時に自分を苦しめていく言葉だと知った。
 いつからか私の口癖はそれになっていて、何でも『大丈夫』と言ってしまうのだ。

 でもそうすると、周りのみんなは私を仲間に入れてくれる。嫌われない。外されない。

 もう二度と、あんなこと(・・・・・)にはなりたくないから、こうして自分を隠す。

 「う゛……」

 頭を押さえて、校舎裏の影に隠れた。
 硬い校舎の壁と、冷たい秋の風の奥で、お昼休みのうるさく響く声が、私の頭の中にずしんと響いて雷のような痛みが頭を襲った。

 耐えろ、耐えろ、私。
 大丈夫、大丈夫。

 ぎゅっと、親指の爪を中指の腹に立てる。
 赤くあとが残るまで、何度も、何度も。

 それからお昼休みが終わるころまで、ずっと影に隠れて風に当たっていた。