キーンコーンカーンコーン、とお昼休み開始のチャイムがなった。
 それと同時に席を立って、お弁当をもっていつもの定位置へと向かう。
 今日は日は出ているけれど、数日前の冷たさから格段に冷えたような気がした。この時期になると教室で食べる人が多くなってくるんだろうな、と勝手に推測する。

 今日は誰もいませんように。
 そう心の中で念じていたのだけど、またも私が使っていたベンチに荷物が置かれていた。前の人と同じものだ。
 ……ということは……。

 「ということは? 鷹野くん、か……」

 前回と同じくらいの時間に来るのなら、さっさと食べて、すぐに図書館へ行こう。
 前もそうしたかったのだけど寝てしまったおかげで作戦は失敗した。今日こそは、と一人決意しながらベンチに向かった。

 食べながらふと思う。高校1年の時から高2の秋(今)まで、ずっとこの中庭を利用してきたはずだ。なのになんで彼の姿を見かけなかったのだろう。
 まぁ鷹野くんが来る時間にはもう私は食べ終わっている時間だし、すれ違い続けてきたのかもしれない。

 卵焼きをパクリと口に入れて……ゴクリ、と飲み込んだその瞬間、向こうから歩いてくる人影が目に入った。

 鷹野くんだ。
 まだ半分以上残っているけれど、怒られて『もう来るな』なんて言われた終わりだ。
 残りは向こうで食べよう。そう決めてドタバタと一人慌てて片付ける。

 「あ、えっと、その、横取りしたつもりはなくて、今早急に立ち去ろうと思っていたところで……」
 「……」
 「ごめん、もう次からここ来ないので……」

 ぎろりとあの鋭い目に見られて、冷や汗が噴き出してくるのを感じながら、そーっと弁当箱をもって後ずさる。
 走って、向こうまでいこう。深く、頭を下げて静かに立ち去ろう。