顔を洗ってリビングに向かうと、タイミングよくポンッとトースターが跳ね上がる音がした。
 それからちょっと焦げたようなにおいと、朝ごはんの優しいにおいが漂ってきて思わずという感じでぐう、とお腹が鳴る。
 ちょうど今はニュースをやっていて、ちらりと見ながらキッチンに立つお母さんにそっと声をかけた。

 「……おはよう」
 「起きたのね、後で話したいことがあるから座ってて」

 話したいこと。そのワードに引っかかりながらも内容の想像はある程度できていたので、じっとニュースを眺めながら朝ご飯を待った。
 朝から犯罪やら事故やら物騒な言葉が飛び交う中、ふわりとあくびをして、先に用意された水をコクリと飲む。
 やがてカチャン、と目の前に1枚のトーストとウインナー、スクランブルエッグにサラダが出された。
 代り映えしないと言ったらしないけど、私の朝ご飯がパンの場合はこのメニューだ。
 もともとそんなに大食いじゃないし、朝はこのくらいがちょうどいい。手を合わせて、「いただきます」と呟いてトーストをかじる。

 やっぱり少し焦げたらしく、黒くなっているところがあった。最後に一口でそれを詰め込んで、お母さんから何か言われる前に席を立つ。……はずだった。

 「ごちそうさま」と言いながら立ち上がって自分の部屋へ戻ろうとしたら、お母さんに「座りなさい」と言われてそのまま座る。

 「冴! このテストの結果はいったい何なの!」

 言われると思った、だから見つからないようにしていたのに。

 数日前に行われた、数学と理科の模試テスト。ケアレスミスがいつになく多くて、90点を下回る結果となってしまった。
 見られたらきっと……。

 「お兄ちゃんはできるのに、なんで冴はできないの? 恥ずかしいと思わないの?」
 
 このセリフ。毎回毎回、怒る時は必ずこのセリフから始まる。
 お兄ちゃん、お兄ちゃんって。いつもそうだ。誰も私なんか見てない。
 決まって怒られるのは私で、100点を取ったって、結局「運がよかった」「油断していると痛い目に合う」「続けることが大切」などとうるさく言われるのは今までの経験上明らかだった。