パンパン、と手を叩く音で、遠くに行きかけていた意識が戻ってきた。
 それと同時に目の前のノートと黒板に書かれた数式が目に入る。

 危ない、このまま寝るところだった。
 今は数学の授業。時計を見ると、授業開始からは20分くらい経っていた。
 毎回授業の最初には、復習プリントをやっているのだが、気づかないうちに答え合わせが行われていたらしい。
 その時から記憶があいまいなので、少なくとも10分は意識がなかったことになる。

 「じゃあ問3の問題を解いて、終わった人からA問題やっててな~」

 そう言われて、まだ教科書を開いていなかったことに気がついた。
 ダメだ、最近全然集中できない。
 あわてて教科書を開いて、問題と向き合う。復習や予習をしているはずなのに、全く文字が頭に入って来ない。ずっと頭に霧がかかっているような感じがして、ぐるぐると眠気と疲れが襲う。
 そうして、やっとのことで2、3問解いたところだった。

 「そろそろ答え合わせをするぞ~」という先生の声が聞こえ、反射的に顔を上げ先生の方を見る。
 先生にあてられたら、その人は前に言って黒板に答えを書きに行かないといけない。今までも数回あったけど、絶対に今回は当たりたくなかった。
 でもそういう時に限って何かの運があるのだ。こういうのを悪運が強いって言うんだろうな。
 1、2、3とどんどん名前が呼ばれていって、最後、先生の方を見たら一瞬視線が絡む。

 ハッとして下を向いたけど、少し遅かったみたいだ。

 「じゃあラスト4番、榎本な。少し難しいけどまー榎本なら解ける!」

 名前を呼ばれた。しかも、いらないプレッシャーまでおまけで。
 ドクン、ドクン、とありえないほど早く心臓が早鐘をうち始める。
 何事もないように「はい」と言って立って、黒板に向かう。
 ――はずだった。

 「せんせー榎本さんがかわいそうでしょー」
 「榎本さん頭イイから解けそう」
 「冴ちゃん何でも解けちゃうでしょ」
 「冴がんばれ~」