発散する熱量による温度差。

* * * *

 初めて来るサーキットは、静香の想像を遥かに越えていた。

 今日はドリフト走行の日らしく、タイヤをロックしながら走るため、けたたましいブレーキ音と、タイヤが地面と擦れてやけ溶けるような匂いがする。

 新しいものを見た静香は、興味深そうにサーキットを囲う座席に腰を下ろした。

「こういうふうに車が走っているの、初めて見ました。結構楽しいですね」
「走るのも楽しいんですよ! すごくストレス発散になって」
「へぇ……来間さんもよく走っているんですか?」

 静香が尋ねたが、何故か返事が返って来ない。不思議に思って彼の方を見ると、驚くほど真剣な表情で、まるで車を睨みつけるように凝視していた。

「あぁっ、ブレーキのタイミングが遅いんだよ!」

 ん? もしや私の話、聞いてない?

「違う違う! ハンドルをもっときらないと……あぁっ、あのドライバー下手くそだな!」

 あれっ、独り言?

「初心者かよ! そんな奴が、このコースにくんじゃねぇよ!」

 おや? さっきまでの穏やかな口調はどこに行ったのかしら……。

「あぁ見てられねぇ! 早く終われよ!」

 あぁ、この人、私が隣にいることを忘れているに違いない。

 しかしそれが続くにつれ、静香は少しずつ怖くなり始めた。

 もしかしてこれが本性で、先ほどまで見せていたのは、見せかけの姿なのではないか──そうなると早く帰りたくなったのに、隣で息巻いている男性に声をかける勇気が出ない。

 あー、どうしたらいいのかしら──静香は空を見上げ、息を吐いた。