翌朝、ミーシャとグレンを乗せた馬車は、セリオン教国の首都である聖都サクレドムに向けて出発した。馬車には高度な魔術防御が施され、魔物を退けると同時に捕虜の逃亡を阻止している。セオドリックの計らいで、ミーシャには白を基調とした真新しいドレスが着せられた。白地に金糸のあしらわれた聖女然としたドレスはミーシャのために仕立てられたものだが、ミーシャはドレスを着せられるまでその存在を知らなかった。手配したのは、セオドリックの指示を受けた聖騎士カタリーナだった。部下の女騎士とミーシャの体型が似ていることに気づいたカタリーナは、ミーシャ本人ではなく自身の部下に採寸を受けさせていた。
聖都に着くと、馬車を覆う幌が外された。ミーシャの視界に飛び込んできたのは、市街にひしめく大勢の人、自分に向けられる視線だった。ミーシャは身を強ばらせた。ドレスを着せられてはいても、その身は鎖で縛られたまま。罪人に対する好奇や悪意を向けられるものだと思っていた。
しかし人々がミーシャに向ける視線はそのようなものではなかった。中には不安げな顔でミーシャを見ている者もいるが、罪人か否かを疑っているわけではなさそうだ。
鐘の音と歓声が聞こえる。馬車の進む大通りは花で飾りたてられており、教皇庁の紋章が刻まれた白い旗がはためく。兵士たちは整然と槍を掲げ、聖騎士たちの甲冑が燦然と輝いていた。民衆は通りや広場に集まり、或いは窓やバルコニーから大きく身を乗り出して、ミーシャに手を振っている。
聖都サクレドムの民衆は、ミーシャとグレンを歓迎していた。
彼らは『聖女の帰還』を祝福していた。
ミーシャは傍らのセオドリックに小声で尋ねる。
「どういうことなの……?」
「凱旋だと言っただろう。君は聖女なのだよ。我が国にとってもね」
セオドリックは前を見据えたまま、ミーシャに答えた。
ミーシャは視線を落とした。露わになった胸元には、エリシス教の聖印の刻まれたメダリオンが輝いている。戒められたままの身では、信仰の証に触れることも隠すこともままならない。ミーシャは探るようにセオドリックを横目で見た。
「……私は異教徒よ。貴方も知っているでしょう?」
「君が何に祈ろうが、聖女であることに変わりはない」
「異教徒や異端者には厳しい国だと聞いていたわ」
「確かに甘くはない。が、民衆は聖女を待ちわびていたのだよ」
セオドリックの言葉には、含むところがありそうだった。
しかしそれが何なのか、ミーシャには知り得ない。
聖歌隊の歌が聞こえる。整然とした白亜の街を馬車は一直線に進む。市壁の門から聖都の中央の聖セリオン大聖堂まで、一本の道がまっすぐ伸びている。中心部に近づくに従って、都市を形作る建造物は荘厳になっていく。金で装飾された屋根が、日光を受けてまばゆく輝く。宗教的なモチーフとおぼしきモザイク画や彫刻が、白い外壁に彩りと陰影を添えている。遠近感が狂いそうな巨大な建物が行く手に見える。この国の統治者たる教皇の住まう、聖セリオン大聖堂だった。
聖都に着くと、馬車を覆う幌が外された。ミーシャの視界に飛び込んできたのは、市街にひしめく大勢の人、自分に向けられる視線だった。ミーシャは身を強ばらせた。ドレスを着せられてはいても、その身は鎖で縛られたまま。罪人に対する好奇や悪意を向けられるものだと思っていた。
しかし人々がミーシャに向ける視線はそのようなものではなかった。中には不安げな顔でミーシャを見ている者もいるが、罪人か否かを疑っているわけではなさそうだ。
鐘の音と歓声が聞こえる。馬車の進む大通りは花で飾りたてられており、教皇庁の紋章が刻まれた白い旗がはためく。兵士たちは整然と槍を掲げ、聖騎士たちの甲冑が燦然と輝いていた。民衆は通りや広場に集まり、或いは窓やバルコニーから大きく身を乗り出して、ミーシャに手を振っている。
聖都サクレドムの民衆は、ミーシャとグレンを歓迎していた。
彼らは『聖女の帰還』を祝福していた。
ミーシャは傍らのセオドリックに小声で尋ねる。
「どういうことなの……?」
「凱旋だと言っただろう。君は聖女なのだよ。我が国にとってもね」
セオドリックは前を見据えたまま、ミーシャに答えた。
ミーシャは視線を落とした。露わになった胸元には、エリシス教の聖印の刻まれたメダリオンが輝いている。戒められたままの身では、信仰の証に触れることも隠すこともままならない。ミーシャは探るようにセオドリックを横目で見た。
「……私は異教徒よ。貴方も知っているでしょう?」
「君が何に祈ろうが、聖女であることに変わりはない」
「異教徒や異端者には厳しい国だと聞いていたわ」
「確かに甘くはない。が、民衆は聖女を待ちわびていたのだよ」
セオドリックの言葉には、含むところがありそうだった。
しかしそれが何なのか、ミーシャには知り得ない。
聖歌隊の歌が聞こえる。整然とした白亜の街を馬車は一直線に進む。市壁の門から聖都の中央の聖セリオン大聖堂まで、一本の道がまっすぐ伸びている。中心部に近づくに従って、都市を形作る建造物は荘厳になっていく。金で装飾された屋根が、日光を受けてまばゆく輝く。宗教的なモチーフとおぼしきモザイク画や彫刻が、白い外壁に彩りと陰影を添えている。遠近感が狂いそうな巨大な建物が行く手に見える。この国の統治者たる教皇の住まう、聖セリオン大聖堂だった。

