今度こそ失敗はできない。そう考えた私はまずはリサーチから始めた。
バツイチが多く登録しているアプリ。そして地方の数十万人規模の市に住む私でも出会いがありそうな登録者数の多さ。
そうしてリサーチする事ひと月。私は一つの婚活アプリに登録をした。

これで安心、出会いがある・・・なんて甘ったれた考えは一週間もしない内に消え去った。

出来るだけ顔写真を公開している男性の中からこの人と話してみたいなぁと感じた人に「いいね」を送っていた。
何人かは返事もあって数度やり取りもしたけれど、言わせてもらおう。

お前ら本気で結婚する気あんのかよ!!婚活アプリだろうが!

「いいねありがとうございます!!体重どのくらいですか?ちなみに俺はぽっちゃり好きです!」
いや、最初のメッセージそれでいいの?
「元嫁は浮気して出ていきました。裏切る気があるなら僕に構わないでください。キズつきたくないんです。」
あなたに婚活アプリはまだ早いんじゃない?
「とりあえずご飯行きましょう。送り迎えしますので住所はどこでしょうか?」
普通に怖いわ。

なんか思っていたのと違う。本気で結婚する気あるの?アプリってこんななの?
疑問や不安が頭の中を巡る。やめようかと考えもしたが、今私は29歳。あと1歳足せば30歳。この差は大きい。
友だちの中には焦らなくてもいいんじゃない?そう言ってくれる人もいる。でも考えてほしい。医療技術が進化している現代日本であっても高齢出産はやはり危険だし、様々なリスクもある。
自分が年老いた時に病院に行きたくても付き添いが必要な時だってあるし、施設に入る時だって身内のサポートは必要だ。

何も三十路でバツイチだからって理由だけではないのだ。
断じて、親友が家建てる土地探しをしているのが羨ましいとか、同級生が子供の幼稚園の卒園式があるからダイエット中な事とかが羨ましくて、婚活アプリをしているわけではない。

イライラしながらもどうにか一人の男性と実際に会うことになった。

待ち合わせ当日、そこそこ大きめのショッピングモールで会うことにした私たちは目印にとお互いに青い服を着ることにした。
待ち合わせ場所はインフォメーション横のベンチ。5分前に私が到着すると、男性、Aさんとしよう。Aさんは青いTシャツにジーンズ、白い靴という格好でスマホを見ながら何故か左右に揺れていた。嫌な予感がした私はマナー違反と知りつつも、そっと背後に回り通り過ぎるふりをしてスマホをちらっと除く。
「(なんかよくわかんないカラフルなアイドルのライブ?)」
一瞬歩みが止まったが、話してもいないのに帰るわけにはいかないと思いなおし改めてAさんに歩み寄る。

「あの・・・Aさんですか?」
バッと勢いよく顔をあげたAさんは慌てたようにスマホをポケットへ入れる。
「あ、はい。えっと・・・みかんさん(私のアプリ上での名前だ)ですよね。はじめまして。」
「はじめまして、今日はよろしくお願いします。」

うん、とりあえずスタートはいいのでは?Aさんの身長は170くらい。私が160だからまぁバランスはいい。体形はちょっとぽっちゃりだけど、不衛生な感じはしない。
ショッピングモール内にあるカフェへと歩きながら悪くはないかな、なんて考えていた。
エスカレーターを上がってもうすぐカフェがみえる。そんな時だった。Aさんが急に立ち止まったのは。

「?Aさん、どうしましたか?」
何かを見ているのに気が付き視線の先を追う。そこには女児向けの変身アニメグッズがあった。
「いや・・・時にみかんさん、オタクってどう思います?」
唐突だなおい。そう思いながらも返答する。
「わたしも漫画読んだりアニメも見るのでオタクかもです。好きなものがあるのはいい事じゃないですか?」
そうにっこりと笑いながら言うとAさんは急に勢いよく話し始めた。正直何言ってたのか覚えていないが、
「そうですよね、俺は昔から変身物が好きで最近のアニメ~~~グッズ展開がすごくて今の時代に生まれて感謝~~~理解ある人でよかったです。いっしょにオタ活楽しみましょう!」
こんな感じのことを言っていたと思う。オタクが悪いとは言わないが、初対面の人にプリティでキュアな話はやめてほしい。ちなみにあのカラフルなアイドルの動画はプリティなアニメのエンディング動画だった。
そこから先のことは言うまでもないだろう。

結論、その日限りでAさんとは終わった。

このことが若干トラウマになった私はなかなか次の出会いにつながらず、アプリ活動に行き詰っていた。
色々考えすぎて頭が痛くなってきた私は、月一の親友とランチをした際に婚活アプリのことを話す。

「何なの、どいつもこいつも。バツイチ女に選択肢はないってか!そういう事なんか!?」
オレンジ100%のジュースを飲みながらグダグダ言う私に親友が一言。

「うん、とりあえず婚活に向いてないわ。焦って失敗するのもあれだし、バツ二個つくんは嫌っしょ?」
「・・・ですよね~。」

帰宅後私はアプリを開いた。ここに登録している人たちの何人がマッチングに成功して幸せになれるんだろう。
きっとその人たちも変なメッセージを送られてきたことがあるのだろう。それでも心折れずに続けて、出会って、成功して、幸せをつかんだ。

「本気で婚活する気がないのは私なのかも。」

私はアプリから退会した。
こうして私のアプリとの戦いはわずか2カ月で終わりを告げたのだ。

29歳、バツイチ女は今日も出会いを求めて彷徨う。

次は市が主催の婚活パーティーに行ってみようかな。