俺は昔から、出来のいい兄と比べられて生きてきた。


「輝星のお兄さんって、超偏差値高い高校の生徒会長なんでしょ?いいなぁ、完璧な兄貴持ってるなんて」


高校に上がり、同じ学校でなくなっても兄貴の話をされることは結構あった。

そしてその度に薄っぺらい笑顔を浮かべてやり過ごすのが“俺”だった。


俺はなんでも完璧にこなせてしまう兄貴に憧れて、最初こそは努力して追いつこうと毎日必死だった。

だけど、やってもやっても兄貴はその倍前に進んでいくような人だったから、いつしか背中を追いかけることはやめて周りの期待通りの人になろうと自分を作るようになった。

本当は死ぬほど勉強しているけど、さも余裕そうに学年トップを維持し続け、相手が望むことを言ってやっているだけなのにコミュニケーション能力が高いと誤解され目立つようになった。

気づけば俺の周りには常に人がいて、余計作った自分でいる時間の方が多くなっていった。


「輝星って、いつになったら前園さんと付き合うのー?」

「…え?」


集団でカラオケに来ていたある日の放課後だった。

女子たちがみんなドリンクバーで席を外していた時に、ふとクラスメイトの男子がそう尋ねてきたのは。


「いや、え?じゃなくてー。幼なじみでずっと一緒にいて、さすがに好きじゃないとか言わないよなー?前園さんだって輝星から告白されんの待ってるだろうにかわいそうだろー」