「これぐらいでどうでしょうか?」

 ウラヤスが電卓をマサキに見せる。

「結構いい値段ですね」

 表示された値段を見てマサキは少し驚いた。
 想定していたよりも金額が大きかったのだ。

「どれも品質がいい。ここに来るような人は言っては悪いですがあまり腕の良くない人も多いので」

 トマトをしっかりと確保して戦うのは面倒である。
 トマトヘッドのゲートにはお金よりも軽い腕試しぐらいのつもりで来るぐらいの人が多いため、直接声をかけてもまともなトマトを確保できないこともある。

 それに比べてトモナリたちは多くのトマトを傷なくキレイに持ってきてくれた。
 ウラヤスとしては数も質も確保できたので何の文句もなく、少しばかり金額を増やしてくれたのである。

「振込と現金どちらがよろしいでしょうか?」

「じゃあ現金で」

「了解いたしました」

 ウラヤスはトラックの助手席に乗せていたアタッシュケースを開けるとお金を取り出して封筒に入れる。

「こちらお約束の報酬でございます。ご確認ください」

「ありがとうございます」

 圭はその場でお金を確認する。
 ここまできて騙してくることは考えにくいがだからといって最後まで気は抜かない。

「是非とも今度はその仮面の下のお顔を拝見させていただきたいものです」

 圭たちはゲートを出た時から仮面をつけたままだった。
 動画を配信するつもりであったしウラヤスにも顔をバレないようにとしていたのだ。

「それでは私は失礼いたします」

 ウラヤスは大きく頭を下げるとトラックに乗り込み走り去った。

「さてと、スーパー銭湯でも行って飯でも食うか」

 いい感じの収入が入ってきた。
 慣れないうちについてしまったトマト汁なんかもあるので食事の前に体を綺麗にしようと思った。

「何か食べたいものはあるか?」

「私は何でもいいですよ」

「焼き肉」

「焼き肉か。たまには豪勢にいいかもな」

 ーーーーー

 トマトヘッドのゲート攻略から数日後、フェネストラに一本の動画が投稿された。

「トラです」

「ト、トラ?」

「うん。虎の仮面だから。がおー」

「新しい仲間が来てくれました。本人が気に入ってるのでトラちゃんと呼んであげてください」

 [おっ、詐欺動画の新作か]
 [俺の分析では本物]
 [そんなわけwww]
 [本物ならどうやって撮ってんだよ]
 [レイレイ〜]
 [なんか新しい子増えてるじゃん! しかも女の子だ!]

 投稿されるや否やコメント欄ではさまざまな反応が巻き起こっていた。
 今度こそ動画の粗を見つけて偽物だと証明してやると意気込んでいる人や単に動画を楽しみにしている人、レイを見にきた人や無意味に議論にチャチャを入れる人もいる。

 [トラちゃん可愛い!]
 [割と若い感じ? レイレイよりも年下そう]
 [仮面外してほしい]
 [はぁはぁ……俺はレイレイ一筋だよ……]

 動画の反応で多かったのはやはりトラ、つまりはイリーシャに関するものだった。
 仮面を付けてても分かるイリーシャの美人さとレイレイとはまた違うクールなキャラにレイと比較したコメントも多い。

 可愛いなどのコメントが多かったのだが攻略が始まると反応は一変する。

 [!!!?!!!??!!]
 [はっ? 魔法!?]

 イリーシャが魔法を使ってトマトヘッドを氷の中に閉じ込めた。
 トマトヘッドは氷と一緒に粉々に砕け散ってイリーシャは失敗したとしょんぼりする。

 誰がどう見てもイリーシャが使ったのは魔法であった。
 ここまでマサキとレイは剣を使って戦ってきた。

 動画の中では適当に剣を振り回してCGでモンスターを作り出しているなんて言われていた。
 そこに魔法が加わった。

 モンスターもCGで作れるなら魔法も作れるのではないかという人もいるけれど、敵を凍らせ、氷を飛ばしと見た目にわかりやすい魔法をCGで作る技術があるならそれで食っていけるだろう。

 [この魔法は本物! つまりこれはやっぱりゲートの中を撮影したものだ!]
 [そんなわけないだろ! 魔法も偽物に違いない]
 [本物でもどうやって撮影してるんだよ]
 [全部本物だとしたら撮影方法が気になってきた]
 [俺トラたん派に乗り換える]
 [おい、トラをもっと映せ]

「……このコメントなんか引っかかるな」

 マサキは動画の反応を見ていた。
 想像通りに盛り上がっている。

 トマトヘッドはモンスターとしては強くなく、絵的には盛り上がりに欠ける可能性もあったけれど、魔法の派手さとイルージュという新キャラのおかげで視聴数は伸びている。
 色々な反応、コメントがあるのだが、その中で“氷宮の後継者”というハンドルネームのユーザーがやたらとイルージュを映せとコメントを残している。

 イルージュの魔法を褒めたり、レイは移さなくていいと言ったりとイルージュに執着している様子だ。
 それが気になった。

「まあいいか……」

 何であれこれぐらいなら荒らしにもならない。
 熱心に見てくれるのならマサキとしても文句はない。

「そろそろ名前で配信することも考えなきゃな」

 動画が嘘であれ誠であれ多くの人が注目し始めたことは間違いない。
 そのおかげで投げ銭解禁の条件も満たせそうなところまで来ている。

 次の段階に進むときも近い。
 イリーシャが来てくれてチームとしてのバランスも良くなったので次の計画に移る準備も始めなきゃなとマサキは思った。