「貴様……何かを……」

「三回しか……使えないんだよ……」

 たとえ死が迫ろうとも武器を手放すな。
 回帰前戦いの激しさが増す中でみんながそう口にした。

 無駄に思えるかもしれない一振りでも諦めずに振え。
 その一撃は誰かを救うかもしれない。

 たとえ死が迫ろうとも命尽きるかもしれないその瞬間まで武器を手放すな。
 反撃の時は死ぬ時に訪れるかもしれない。

 窮地に陥った人類は最後まで抵抗を続けた。
 死ぬ一瞬まで戦い続けることで相手を倒し、あるいは誰かのための隙を作る。

 マサキも首を締め上げられながら武器を手放さなかった。
 そして首を絞める手を振り解こうとしていた左手にはいつの間にか亀のようなアーティファクトが握られていた。

「グッ…………」

 まずはマサキを殺した方がいい。
 そう思ったコートの腹にマサキが剣を突き刺した。

 マサキが動いたのは分かった。
 なのに体が動かなかったとコートの男は驚いた視線をマサキに向けた。

「何かの……スキル……か」

「ゲホッ!」

 コートの男がマサキから手を離し、ふらついたように後ろに下がった。
 マサキは咳き込みながらも女の子たちの前に出てコートの男のことを睨みつける。

「くっ……殺してやる……」

「それは困るな……まだ死にたくないんだ」

 女の子たちを囲んでいたシールドが消える。
 必要ならもう一度使うしかないなとマサキは左手に持った亀のアーティファクトをチラリとみる。

「おい、中に誰かいるのか!」

 コンテナの外から声が聞こえた。
 どうやら戦いも終わりに近づいているようだった。

「チッ……!」

 逃げ場のないの中にいたら危険だとコートの男は察した。
 乱雑にマサキの剣を抜き取ると一度マサキのことを睨みつけて走っていった。

「誰か逃げたぞ! 追いかけろ!」

 走って逃げるコートの男に気がついた外の人たちが追いかけていく音が聞こえる。

「……大丈夫かい?」

 先程まで首を絞められていて青くなった顔でマサキは女の子たちのことを振り返る。

「あなたの方こそ……大丈夫?」

「俺は大丈夫だ……これぐらいなら死にはしない」

 回帰前に一回死んでいるのだ、自分の体の限界は分かっている。
 多少キツイものの死ぬほどのものではなかった。

 あと少しコートの男が首を絞める手に力を入れていたら危なかったかもしれない。
 マサキは安心させようと笑顔を浮かべる。

 うまくできていたかは分からないが苦しそうな顔よりはマシだと思った。

「ウサミさん!」

「ミカミさん……」

 コンテナの中にシンイチが入ってきた。
 返り血を浴びているところを見ればシンイチもイセヤマたちと戦ったのだろう。

「この子たちは……」

「先ほど言ってた売り物にされかけてた子たちですよ。証拠隠滅に殺されそうになっていたので助けたんです……」

「なんと……それはありがとうございます」

 シンイチは女の子たちとマサキの首にくっきり残っている手の跡を見て顔をしかめた。
 人を守って狭いコンテナの中で戦うのは簡単なことではない。

 マサキの正義感にシンイチも感服するしかなかった。

「外の状況は?」

「大体終わりました。もう少しだけここでお待ちいただければ外に出ても大丈夫かと。救急車も呼んでおきますね」

 完全に安全を確保して、イセヤマたちの生き残りを連行してからマサキを出した方がいいだろうとシンイチは考えた。
 シンイチが出ていってマサキは大きなため息をついた。

「ん?」

「……ありがとう」

「ああ、無事でよかったよ……」

 ヨーロッパやロシア系だろうか、綺麗な顔をした女の子がマサキの服を軽く引っ張った。
 お礼を言われて思わず笑顔になってしまう。

「君こそ後ろって教えてくれてありがとな」

 女の子が教えてくれなきゃ危ないところだった。

「あなた、勇気ある人」

「……ちょっとだけな」

 女の子も微笑んで少しカタコトの日本語で答えてくれる。

「とりあえずイセヤマとタナカは片付いたかな?」