「A級の魔石で二十個だ」

 スーツの外国人がアタッシュケースを開けて中身を確認する。
 マサキの位置から中身は見えないがスーツの外国人が手に取ったものがチラリと見えた。

 モンスターの魔石であるようにマサキには思えた。
 今やモンスターの魔石は宝石なんかよりも価値がある。

 魔石にもモンスターによって等級がある。
 アタッシュケースの中にどの等級の魔石がどれほどあるのか知らないが、スーツの日本人の言う通りならアタッシュケース一つでとんでもない金額になる。

 スーツの外国人がコートの男に魔石を渡す。
 コートの男が魔石を握ると魔石が淡く光を放った。

 魔石を返しながらコートの男が頷く。
 それで何がわかったのか謎であるが、スーツの外国人は魔石をアタッシュケースに戻して鍵をかけコートの男に渡す。

「よし、お前たちはこのガキを……」

「動くな! 覚醒者協会だ!」

 スーツの外国人とコートの男が船に向かい始めていつ来るんだとマサキがドキドキしているとようやく覚醒者協会と警察が到着した。

「チッ、どこからか情報が漏れてたのか! お前ら戦え!」

 スーツの日本人が盛大に舌打ちする。
 ひとまず疑われないように周りに合わせてマサキも剣を抜く。

 まずは周りの状況の把握に努める。
 イセヤマたちはスーツの日本人の指示通りに周りを囲もうとする覚醒者協会や警察と戦い始めている。

 船の方に向かっていたスーツの外国人とコートの男の方にも追っ手が迫っている。

「あいつ…………何するつもりだ?」

 スーツの日本人が女の子たちがいるコンテナの方に向かっていることにマサキは気がついた。

「何をするつもりだ!」

「何をしてんだ、テメェ! お前も外で戦え! 俺は証拠を消す」

「消すって……」

 スーツの日本人も覚醒者らしく手に炎をまとっている。
 証拠も何もコンテナの中には女の子たちしかいない。

 手に炎をまとっていることからスーツの日本人が何をしようとしているのかマサキは察してしまった。

「早くお前は戦ってこい!」

「やめろ!」

 スーツの日本人は女の子たちを焼いて殺そうとしているのだとマサキは思った。
 マサキはスーツの日本人に切り掛かった。

「何しやがる!」

 スーツの日本人は身をよじってマサキの剣をかわしたが背中が浅く切り裂かれる。
 マサキはスーツの日本人と場所を入れ替わるようにして女の子たちの前に立ちはだかる。

「この子たちを殺すつもりなのか!」

「こうなって以上は仕方ねぇ! このガキは商品なんだ、甘いこと言ってんじゃねえよ!」

「甘いも何もこの子たちは人間だ!」

 倫理観がイカれてるなとマサキは感じた。
 少しでも何かを隠そうとまだ未成年の女の子たちをためらいなく殺そうとするスーツの日本人はやはり一般の人ではなさそうだ。

「邪魔するならお前ごと……」

 手を伸ばそうとしたスーツの日本人にマサキは一瞬早く切り掛かった。
 それでも魔法を使う方が早い。

 スーツの日本人はそう思ったのだが、なんの抵抗もできないままに切り裂かれた。

「な……なぜ……」

「瞬間拘束……相手が一人ならそれなりに止められるんだぜ」

 マサキはスキルである瞬間拘束を発動させながら切り掛かっていた。
 効果時間は短いといいつつも人間一人相手なら意外と数秒程度は押さえておける。

 スーツの日本人はなぜ動けなくなったのかも分からないまま死んでいった。

「君たち、大丈夫かい? ……言葉通じないか」

 マサキはスーツの日本人が死んだことを確認すると女の子たちの方を振り向いた。
 安心させようと声をかけたのだけど女の子たちは集まるようにしてマサキのことを警戒している。

 日本人っぽそうな子はいない。
 言葉が分からないのかもしれないとマサキも困惑する。

 死体が目の前にある状況で申し訳ないが外が落ち着くまでコンテナの中で待っていてもらうしかない。

「後ろ……」

「君話せるのか? 後ろ……?」

 女の子の一人が怯えたような目でマサキの後ろを指差した。
 多少カタコトっぽかったけど普通に言葉として理解できるなと思いながらも後ろを振り返る。

 そこには黒いコートを着た男が立っていた。
 マサキが強いと感じたあのコートの男である。

 ヤバいと本能的に感じた。

「グッ!」

 しかし体が動く前にコートの男が消えてマサキは首を掴まれてコンテナの壁に押さえつけられた。
 コートの男はコンテナの入り口からまっすぐ向かってきたはずなのに見えなかった。

「グッ……ガッ……」

 壁に押さえつけるようにしてコートの男がマサキの体を持ち上げる。
 自分の体の重さで首が締まってマサキはコートの男の手を掴むが全くびくともしない。

 明らかに力の差がある。

「や、やめろ……」

 コートの男は女の子たちに手を伸ばす。
 どうするつもりなのか知らないがコートの男の手に魔力が集まっていて危険なことだけは分かる。

「…………」

 コートの男はボソリと何かを呟いて黒い魔力の塊を放った。

「チッ……こんなところで一回使わされるなんてな……」

 女の子たちの周りに青いシールドが展開され、コートの男の魔法が弾かれた。
 コートの男は驚きに目を見開く。